高校2年生の福(さち)は同い年の幼馴染・宝(たから)と交際していて、互いを思う気持ちから自然に体を重ねるようになる。当然、避妊はしていたが、一度だけコンドームが破れてしまうハプニングがあった。

 ある日、体調の異変を感じた福は、人目をはばかるように遠い街のドラッグストアへと向かう。購入した妊娠検査薬を使用したところ、彼女の目に映ったのは「陽性」を示す2本の線だった――。

少女漫画で「若年妊娠」を描くわけ

©蒼井まもる/講談社

「別冊フレンド」(講談社)で連載中の『あの子の子ども』(既刊4巻)は、10代の妊娠をテーマにした物語だ。なぜ「若年妊娠」を少女漫画のテーマに据えたのか。著者の蒼井まもる先生に話を聞いた。

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「私には4歳になる娘がいるのですが、親として性教育について考える機会が増えました。いろいろと調べるなかで、SRHR(※)という概念に出会って。性交渉をはじめ、妊娠・出産・中絶について十分な情報を得たうえで、自分の体のことは自分で決める。そういう環境が理想ですが、日本では性教育が充実しているとは言えない状況ではないかと感じました。

 そこで私にできることは何かと考えたとき、漫画という形で伝えていこうと思い立ったんです。『別フレ』のメイン読者は中高生の女の子なので、彼女たちに『性に関する権利』について知ってほしいという気持ちから、この連載をスタートさせました」

※「Sexual and Reproductive Health and Rights」の頭文字をとった略語。日本語では「性と生殖に関する健康と権利」と訳される。

主人公の福(さち)と恋人の宝 ©蒼井まもる/講談社

「中絶」をめぐり対立する大人たち

 福の恋人である宝は、彼女の気持ちを尊重しながら、中絶・出産・特別養子縁組などあらゆる可能性を一緒に検討していく。17歳の若さで、地に足がついた彼のキャラクターはいかにして生まれたのか。

「若年妊娠を描く作品では、男の子が逃げるなど無責任な言動をする場面が多く、悲しいことに現実でもそういうケースが少なくないと聞きます。でも、『あの子の子ども』では若年妊娠のリアルを写しだす一方で、問題解決のヒントも提示したい。そのため、宝はある種わかりやすいお手本のような言動をする少年として描いています」(同前)

 福は産婦人科で「妊娠8週」と診断される。初期中絶手術を受けられるのは12週未満。3週間というタイムリミットを突き付けられ、周囲の大人たちも黙っていない。宝の母親や福の父親は中絶すべきだと主張し、福の母親は子どもたちの判断にゆだねようとする。それぞれの意見をぶつけあう親たちを前に、ふたりの心は揺れ動く。