しかし、その後も母親に学校や市教委に対する不信感があったため、調査できない状態が続いた。いじめ重大事態の調査は常設されている「対策委員会」が担うが、信頼関係が築けないことから、遺族は「市子どもの権利条例委員会」に基づく「条例委員会」にメールを送った。また、最終的には、調査主体を市長部局に求めた。9月22日、市長は調査委員会を設置すると決めた。
「『基本調査』は代理人を通じて8月末に渡しています。ただ、市教委としては、学校から聞いている話と、遺族から聞いている話が違っています。市教委としても、イレギュラーな形ですが、市長部局の再調査とは別に、基本調査をベースに検証しようと思っています。また、『黒塗り』の開示資料ですが、調査委が終了した後なら、守秘義務部分以外は、できるだけ開示したいと思っています」
再調査委の事務局を担う総務課によると、いじめの有無、自殺の背景、関係機関の対応などを調査、検証する。調査にあたっての規則や要綱は委員会で決めることになる。
教員からの暴言問題は子ども同士のいじめよりも深刻
調査委員の経験がある、千葉大学の藤川大祐教授がコメントする。
「私が2019年に記者会見して告発した千葉県流山市の事例に似ている。流山市教委は、小学校でのいじめ被害を訴えた長期不登校があっても重大事態とはせず、中学校で再度心身の重要な被害や不登校が生じるに至ってようやく重大事態として認めたが、それでも半年近く放置したため、被害者の絶望は深刻なものとなった。
今回のケースでもかなりの長期間、いじめ被害の訴えがあり、被害者は不登校になっていたのであり、この初期の時点で『重大事態』として第三者委員会による調査がなされているべきであった。重大事態としての対処が遅れることは、被害者に深刻な苦痛をもたらすものであり、市教委の責任は重い。初期段階で重大事態としての調査がなされていれば、自殺が防げた可能性は高く、市教委・学校が遺族と対立することも避けられたはずだ。
法律では市教委または学校が調査をしなければならず、調査において遺族の協力は不可欠であるので、市教委は市長部局や権利条例委員会の協力を得てでも、遺族と連絡をとり、協力を得てもっと早く調査を始めるべきだった。
学校や市教委が『初期調査』を行ったというが、『初期調査』は法律にはなく、公平性・中立性が蔑ろにされていた可能性が高い。法律に従い、『初期調査』などをせず、速やかに第三者委員会による調査を開始する必要があった。
教員からの暴言問題が背景にあるならば、子ども同士のいじめよりも深刻だ。教員による“いじめ”を直接的に扱う法律はないが、訴えがあったら、ハラスメントやいじめと同様に調査がされるようになるべきだ。教員による“いじめ”では学校側が教員を守ってしまう可能性があり、このことを前提とした対応が求められる」
翔さんの自殺をめぐる生徒へのアンケート調査はこれから始まるという。
写真=渋井哲也