「息子が運ばれた時、私も救急車に乗り込みました。看護師として救急救命センターで働いていたことがあるんです。そのため、救命を手伝いました。『血管確保』と言われて、その後手を握ったんですが、もう冷たかったです。
無理だなとは思いつつも、何度も血管を確保しました。カウンターショックも何度もかけました。でも、手と足がうねるだけで、何も動かなかったんです。病院では『もうこれ以上の措置は難しいです』と言われました。これって、自分が仕事でいつも患者さんの遺族に話していること。夢なんじゃないかって思いました……」(母親)
2012年10月29日午後7時20分ごろ、広島県東広島市内の公園で、市立中2年の男子生徒・ヨウヘイさん(仮名、享年14)が首を吊った状態で見つかり、救急車で病院に搬送されたが、死亡が確認された。警察は自殺と判断した。
この問題をめぐって、遺族は東広島市に対して、生徒が自殺したのは教師の不適切な指導が原因だとして損害賠償を求めている。
17時30分完全下校のはずなのに帰ってこない
裁判の過程では、学校側が自殺後の生徒アンケートを開示しなかったことで、本裁判とは別に文書提示の裁判が行われた。最高裁で遺族側の勝訴が確定し、市側がアンケートを開示した。その後に本裁判が再開した。自殺から10年が経とうとするなか、2022年8月、ようやく証人尋問が行われた。ただし、出廷が予定されていた担任は、精神的負荷を理由に尋問を欠席した。9月30日には、遺族の尋問が行われる。
ヨウヘイさんが亡くなった当日、父親(53)は仕事が休みだった。母親(57)は、家族が入院していた病院から帰宅していた。17時ごろ、近くにある中学校から帰宅する生徒たちが自宅の窓から見えた。しかし、ヨウヘイさんの姿はない。18時過ぎに夫婦で「遅いね」という会話があったのを覚えている。
「17時30分には完全下校のはずなんですが、今まで連絡もなく遅くなることはなかったんです。学校は歩いてすぐの場所。そのため、私は歩いていったん学校へ行ったものの、見つけることができませんでした。(ヨウヘイさんが所属していた)野球部が練習しているグラウンドも暗く、『もしかしたら、すれ違ったのか?』と思って、自宅に戻りました」(母親)
公園の木にロープで首を吊っている状態で発見される
しかし、ヨウヘイさんはまだ帰宅していない。両親は車で探したが、ヨウヘイさんの友人宅でバットを振っている中学生の姿が見えた。ヨウヘイさんかと思って声をかけたが、違った。その代わり、「きょう、指導されていたかもしれん」と聞き、両親は再度、学校へ向かった。職員室で母親は焦りを隠さずに「うちの子が帰っていない。どこにおるんですか?」と、野球部のコーチをしていた非常勤講師のYに聞いた。すると、Yは「公園で、一人で考え込んでいるんじゃないですか?」と答えた。