かつて「コアなアニメファン」に愛されるアニメーション作家だった新海誠は、2016年8月公開の映画『君の名は。』の大ヒットにより一躍国民的有名人になった。

 2019年7月公開の『天気の子』も興行収入140億円を超える大ヒット。今や宮崎駿や細田守に並ぶアニメ作家と言っても過言ではない。11月11日(金)には、最新作『すずめの戸締り』の公開も控えている。

 ここでは、評論家であり世界中のアニメーション作品を紹介する活動に携わってきた土居伸彰さんが、新海誠作品の魅力を分析した『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』(集英社新書)より一部を抜粋。『君の名は。』と『天気の子』の違いについて紹介する。(全2回の2回目/『君の名は。』編を読む

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映画『天気の子』公式サイトより

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大ヒットした『君の名は。』に対する様々な反応

『君の名は。』公開後、『天気の子』の完成までには3年の月日がかかっています。この間、新海誠をめぐる状況は大きな変化を迎えます。『君の名は。』の歴史的なヒットゆえです。

 東宝と組んだ1本目の作品ということで、これまでとは公開館も規模が全然違うわけですから、作品を送り出す側としてももちろんこれまでの作品よりも広い人に届くだろうという想定はしていたはずですが、『君の名は。』は、その想定を遥かに超えた、ケタ違いのヒットとなった。これまでの「コア」なファン層を超えて、本当に日本中・世界中の隅々まで「届いて」しまったわけです。

映画『君の名は。』公式サイトより

 その結果、『君の名は。』に対しては本当にいろいろな意見が出ることになります。もちろん、肯定的なものばかりではありません。そのなかには、作品が持つ態度に対して疑義を呈するものもありました。

 たとえば、大きな災害による死者たちの死をなかったことにすること、果たしてそれは許されることなのか?という災害に対する扱い方への批判です。

『君の名は。』公開後のさまざまな(そして過去の作品に比べて膨大な量の)反応を見るなかで準備された『天気の子』において、新海誠にはひとつの転換が起こっていくことになります。『君の名は。』についてこんなにいろいろと言われるようであれば、次の作品はむしろ議論を呼ぶようなものとして構想しよう、という転換です。

『君の名は。』と『天気の子』の決定的な違い

 この転換は、大きなものであるように思えます。なぜならば、新海誠の作品は、基本的には「届かない」ということがテーマになってきたはずだからです。

 本当に身近に、目の前にいる人に対しても、自分自身の思いは届かないこと。物理的に近くとも宇宙を超えてしまうような無限の距離が内包されていること。そういう「届かなさ」がひとつのテーマとしてあったわけですが、『天気の子』については、「届いてしまう」という前提で作られました。