停滞する経済、はびこる汚職、悪化する治安などを理由に、これまで「アジアの病人」という不名誉な称号を受けてきたフィリピン。しかし、2012年から2019年にかけて8年連続で6%以上の経済成長を遂げるなど、近年ではさまざまな政策が実を結びはじめている。

 日本と比べたとき、成長著しいアジアの一国として注目を集めるフィリピンはどのような分野で成功を収めているのか。ここでは、フィリピンの邦字新聞「日刊まにら新聞」編集長を務めた石山永一郎氏の著書『ドゥテルテ 強権大統領はいかに国を変えたか』(角川新書)より一部を抜粋。フィリピン社会の現状を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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アジアでも飛び抜けて高い出生率

 フィリピンの経済成長が今後も期待できる要因の一つには、アジアの中で出生率が飛び抜けて高いことが挙げられる。

 フィリピンの合計特殊出生率は年々低下傾向は見せてはいるものの、2019年時点で2.53で、アジア全域で5位、東南アジア諸国連合(ASEAN)内ではラオスに次いで2番目に高い。ASEAN諸国でもタイの1.51を筆頭に、マレーシアの1.98、ベトナムの2.05など人口維持水準の2.1を割った国も多く出ている中で、フィリピンの出生率の高さは目立つ。現状の人口構成はほぼピラミッド型で、高齢化の兆候はまったく見られていない。2021年時点の人口構成の中央値は日本が48.4歳なのに対し、フィリピンは24.5歳と圧倒的に若い。

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 2021年のフィリピンの合計特殊出生率は1.8と大幅に下がったが、これは新型コロナ禍が何らかの形で影響していると考えられる。夜間外出禁止令が厳格に実施され、ホテルは新型コロナ患者の収容場所となり、一般客は受け付けていなかった。都市部のフィリピン人の多くは自治体配給の食料で生き延び、男女を結び付ける携帯電話も貧困層の多くは質草に入れている状況だった。この特殊な状況が出生率低下につながったとみられ、コロナ後は再び上昇する可能性が高い。

 出生率の高さは避妊を原則として禁じるカトリック教会の教えの影響などさまざまな理由が指摘されているが、「高い出生率が続いていることが高い出生率を維持する」という一種の循環もあるようだ。