近年増えている「卵子凍結」を行う女性たち。多くの国では提供精子を求める女性の大半が、結婚していない女性やレズビアンの女性で、提供精子による子どもが不利益を受けないように法制度が整えられている。しかし日本では、提供精子を用いる人工授精ができるのは、「法的婚姻関係にあるカップル」に限られていると、生殖医療の第一人者である石原理医師は指摘する。石原医師によるレポートを、「週刊文春WOMAN2022秋号」より、一部抜粋して紹介する。

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フェロー諸島の合計特殊出生率はヨーロッパでトップ

「40歳以下の女性が子どもを2人持てるまで、不妊治療の費用を全額、国が負担します。体外受精の場合は、海外の専門クリニックで治療するための渡航費や滞在費も支払います」

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 このような少子化対策の極みとでもいうべき政策を打ち出しているのは、北大西洋のアイスランドとイギリスの間に位置するデンマーク領フェロー諸島の自治政府だ。

 私が現地を訪れたのは2014年9月、話をしてくれたのは、この国唯一の国立病院の産婦人科のカトリン・コルスベリ医師である。

筆者とカトリン医師(写真:筆者提供)

「フェロー諸島の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)はヨーロッパではトップの2.30。私自身も2人の子どもを持つシングルマザーです」

 彼女は手厚い政策の効果が出ていると、胸を張った。

 私は長年、人工授精、体外受精といった生殖医療に携わってきた産婦人科医であり、ここ20年は生殖医療が家族形成や社会・文化に及ぼす影響を調査するために世界各地でフィールドワークを続けてきた。フェロー諸島でのヒアリングもその一環である。

将来の妊娠に備えて自らの卵子を凍結保存

 各地をめぐってつくづく実感したのが、女性たちの生殖に関する考え方、そして選択する方法の変化であり、SDGsで謳われる「多様性」は生命の誕生においては既に世界で実現しつつあるという現実だ。本稿ではそういった“世界の今”の一端でも伝えられたらと思う。

 日本の内外で少子化が叫ばれて久しいが、女性の年齢や不妊症が妊娠・出産を困難にしている場合、生殖医療はその解決に寄与することが期待され、実際に効果を上げている。たとえば、日本の合計特殊出生率は1.34(世界銀行調べ、2020年)だが、いまや、新生児の13人に1人が体外受精によって誕生した赤ちゃんだ。