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「40歳以下の女性が子どもを2人持つまで、費用全額負担の国もあるが…」“結婚していない女性”や“レズビアンの女性”に閉ざされた日本の不妊治療の“現状”

2022/10/08
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結婚することと夫を持つことは別課題

 アイスランドの例も見てみよう。アイスランド唯一の生殖補助医療クリニックの院長グドマンダー・アラソン医師に聞いた。

「アイスランドでは2006年の法改定により、レズビアンカップルが提供精子を用いる人工授精を受けることが可能になりました。でも、小さな国のクリニックで精子提供者を集めることは不可能です。そこで、精子はデンマークの精子バンクから輸入しています」

 デンマークには世界最大の精子バンクがあるのだ。首都コペンハーゲンにある国立病院に、旧知のアンデシュ・ニボー・アネルセン教授がいる。2015年に現地を訪れた際、精子を輸出している国における提供精子による人工授精について聞いてみた。

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「10~15年前までは、提供精子による人工授精はかなり廃れていました。ところが今、利用する女性がまた増えているのです。利用する女性の多くは独身女性やレズビアンの方です。最近の女性は35歳くらいになると、子どもを持ちたいと思うようです。でもその際、結婚すること、夫を持つことは、別の課題にすぎないのです」

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日本と世界の潮流の違い

 筆者が調査した多くの国において、提供精子を求める女性の大半が結婚していない女性やレズビアンの女性であった。そして大事なのは、多くの国では、そういう女性たち、あるいはそういう女性たちの下に生まれた子どもが一切の不利益を受けないように法律や制度が整えられ、社会の偏見が解消されつつあるということだ。

 一方、こういった世界の潮流と異なり、日本では日本産科婦人科学会の会告によって、提供精子を用いる人工授精ができるのは「法的婚姻関係にあるカップル」に限定されている。結婚していない女性やレズビアンの女性には門戸が閉ざされているのだ。

 近年、日本国内で、精子提供が個人間取引として相当数行われていることは、私たち産婦人科医の耳にも入っている。提供精子を求めている当事者の中には、多くの未婚女性やレズビアン女性が含まれている実態があると思われる。

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