そして近年、急展開を見せた生殖医療の分野が「卵子凍結」だ。女性の妊孕性(妊娠しやすさ)は加齢により低下することから、将来の妊娠に備えて自らの卵子を凍結保存する女性が増えている。
日本の女性たちが卵子を凍結保存しておきたいのは、自分と遺伝的なつながりのある子どもを持つ可能性を残しておきたい、言い換えれば自らの遺伝子にあるゲノム情報を次世代に伝達したいからだろう。
では、世界ではどうなのだろうか。イギリスのケンブリッジシャー州ののどかな村にあるボーンホール・クリニックは、1978年に世界で初めて体外受精による出生(誕生したのはルイーズ・ブラウンという女の子)に成功したロバート・エドワーズ博士とパトリック・ステプトー博士が開設した、体外受精の聖地とでもいうべきクリニックだ。2000年12月に訪ねたとき、すでにここでは、第三者から提供された卵子を用いた体外受精が行われていた。所長(当時)のピーター・ブリンスデン医師に話を聞いた。
「卵子の提供を希望する女性は、姉妹や友人などに適切な提供者がいないときは、クリニックが募集した35歳未満の匿名の第三者から卵子をもらいます。ただ現在、卵子をもらうまでに約2年は待機してもらわなければいけません」
第三者の卵子を求める女性が2年待ちになっているということは、それほど、子どもを持つにあたって自分のゲノムにはこだわらないという女性が多いということだろう。
自分のゲノムにこだわらない女性たち
一方、第三者の精子を用いた体外受精は、以前から日本も含め世界中で行われてきた。それは主に男性が無精子症の場合であったが、近年は理由が異なるケースが多くなっている。
イギリスの統計を見ると、医療機関において第三者から提供された精子を用いた人工授精を行った件数が2007年頃から急増している。この増加分はすべてレズビアンカップルと独身女性が受けた人工授精で、2019年には全体の6割以上を占めるに至っている。子どもをつくるという場に、男性が不在なのだ。