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 半面、シンガポールに本拠を置くシンクタンクCEIC DATAによる2021年の報告書によると、フィリピン人が家計における可処分所得のうち、貯蓄に回す比率を示す総貯蓄率は10.8%に過ぎず、アジアの中ではシンガポールの45.8%、中国の45.3%、韓国の37.4%、日本の29.6%、ミャンマーの28.7%、カンボジアの24.4%などと比べると大幅に低い。

 そもそも銀行口座を作るには、最低でも5000~1万ペソ(1ペソ=約2.5円)を預け、その額を割ると手数料を月々引き去る銀行が多いため、銀行口座を持っていない国民が非常に多い。いわゆる「宵越しの金は持たない」国民性もあって、あればあったでどんどん消費に使う。庶民が多少なりとも小金を貯めても、その貯金をさらに殖やそうとすることは稀で、その小金で、住宅兼店舗としてサリサリ・ストアと呼ばれる雑貨店などを開業することが多い。貯金ができるとすぐ少額投資に回すので、消費はそこでまた拡大する。最近の中間層の間では、日本円で200万円以上は資本金が必要なコインランドリーなど店舗ビジネスを友人同士で出資し合って開業する例も増えている。

 コロナ禍では、Gキャッシュ、ペイマヤなどスマートフォンさえ持っていれば、決済に使える電子マネーが急速に普及しており、クレジットカード時代を飛び超え、フィリピンは電子マネーの時代に急速に進みつつある。貧困層が決済手段を持ったことが、通信販売、食品配達、配車サービスなどの業界を活性化している。

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 勤労世代に対して、高齢世代や子どもなど非勤労世代の比率が少ないことによる「人口ボーナス」と呼ばれる恩恵は、フィリピンでは少なくとも2050年までは続くとされ、個人消費の拡大は今後も続くのは確実と予想されている。

 フィリピンは2015年に1人当たりの国内総生産(GDP)が3000ドルを突破した。マクロ経済の専門家の間では「1人当たりのGDPが3000ドルを突破すると、自家用車など耐久消費財の需要が劇的に増える」と言われている。実際、かつては富裕層に限られていた自家用車の所有者は中間層にも広がっている。バイクの所有者は貧困層の間でも確実に増えている。