1ページ目から読む
4/5ページ目

「企画が一度頓挫して、あれだけ絶望して…」

 企画発足から6年の歳月を経て、まるで星が一列に並ぶように、最良の「座組み」で制作され、2022年というこのタイミングで放送が決まった本作。

 冒頭で渡辺あやの執筆スタイルは「イタコ」のようであると述べたが、映画『メゾン・ド・ヒミコ』『天然コケッコー』、ドラマ『ロング・グッドバイ』(NHK)など、渡辺といくつもの仕事を共にした映画プロデューサーの小川真司氏は、渡辺のことを「シャーマン体質」と形容している(※)。

 彼女が脚本を担当する作品は不思議な力を持っていて、《その時いた良いメンバーが引き寄せられてできちゃった》ということが往々にしてあるらしい。

ADVERTISEMENT

――作品に「呼ばれている」というような体験が、渡辺さんにも、渡辺さんと一緒に仕事された方々にもよく起こると聞きました。今回の『エルピス —希望、あるいは災い—』からも「呼ばれた」のでしょうか。

渡辺 「呼ばれている」というか、今回は特に、作品自体に意志があって生まれてきたような気がしています。企画が一度頓挫して、あれだけ絶望して、私はすっかり諦めていたのにもかかわらず、作品が不死鳥のように蘇って、実現に至っている。そして、6年前にすんなり放送されるよりも、このタイミングのほうが良かっただろうなという思いが強くあります。

©文藝春秋

 6年前、私と佐野さんはすごくぷりぷり怒っていて、大変危機感を持っていました。そのときいちばん恐ろしいと思ったのは、当時の「現状」に誰も騒いでいないということだったんです。重大な法案を、国会がとても横暴なやり方で決めていたりするのに、みんな沈黙していた。

 ところが6年が経って、今はむしろ危機感を持っている方が増えている感じがする。あのころサラッとこの作品をやってしまうよりは、今のほうが視聴者の皆さんに、私たちと同じ気持ちで見ていただけるのではないかと期待しています。

組織は一枚岩ではない

――コロナ、戦争、世界の分断、安倍元首相銃撃事件、政治と旧統一教会の癒着問題。メディア・報道のあり方が大きく問われたこの2022年に、本作が放送されるというのもまた「呼ばれている」「持っている」という気がしてなりません。

渡辺 カンテレで制作が決まった2020年以降の日本と世界の激動と、それにまつわる報道を見ていて、こちら側にも先入観というものがあることを痛感しました。ドラマの中で「組織は一枚岩ではない」というセリフがよく出てくるのですが、本当にそうなんだろうな、という。