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 私なんかが外から見て「どうせこういうことでしょ?」と思っているよりも、人や、会社や、組織や、世の中というものは、何倍も、何十倍も複雑なんだろうと思うんですよ。恵那のように、今まで戦ったことのなかった人が、冤罪事件というリスクの高い案件の真相解明のために戦おうとすると、局内でいったいどういうことが起こるのか。

 内部事情にお詳しい佐野さんをはじめ、テレビに携わる方々にたくさんお話を伺いました。「一社員が、こういうことを言い出したら何が起こると思う?」とか、「ここまでのことをやるとして、社内的にどういうハードルがある?」みたいなことを、シミュレーションしながら、つぶさに聞いて、書いていきました。

 すると意外なことに、私がてっきり「すべては政権からの一方的な圧力」が原因だと思いこんでいたことも、実は社内政治だったり、もっと多様で複雑なバランスの中で起こっているのだと、改めて知りました。

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©文藝春秋

「私たち人間は、システムに収まりにくい形をしている」

――このドラマを見た視聴者の方に「こんな気持ちになってもらえたらうれしい」「こういうアクションが起きたらうれしい」というようなことはありますか?

渡辺 あらゆるシステムや制度というものは、人が作るもので、たいへん理路整然として合理的なものだと思うんです。ただ、あいにく私たち人間側は、なかなかそこに収まりにくい形をしています。

 それは「歪み」とも言えるし、「奥行き」とも言えるし、あるいは「豊かさ」とも言える。そこでいろんな不都合が起きてくるんですが、さて、その「不都合」をどうするのかということを、その都度考えて、そして考え続けていくことが、大事なんだと思います。

 私にできるのはせいぜい、問題がどういうことなのかということを、解きほぐしてお伝えするまで。「じゃあ、どうしたらいいのか」という答えは、私にはまったくわかりません。ただ、私よりそういうことにお詳しい方や、頭のいい方たちが、こういう問題を前向きに考えてくださるきっかけになればいいなと。毎回、どの作品でも同じなんですが、そういう気持ちで書いています。

※『新潮45』2014年5月号「渡辺あや×小川真司 対談 カッコいい『大人の男』はどこへ消えた」より

写真撮影=山元茂樹/文藝春秋