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「女将」や日本のもてなしから学んだこと

――ご自身が「女将」と呼ばれることには違和感がある、というラミヤさんから見て、その「女将」の仕事はどのように映っていますか?

ラミヤ 日本独特の仕事だと思います。海外で「女将」と似たような形態というと、夫婦で経営しているオーベルジュ(宿泊施設を備えたレストラン)で、食事をサーブするだけでなく、インテリアなどで趣向をこらした空間を作り、イベントを企画したり、ゲストに挨拶をし、案内をする女性でしょうか。ただ、日本のように家業として代々続くかどうかなどはあまり問題になりません。一方で日本の場合は、旅館や女将の仕事に“持続性”の観点があると思います。

 義母の姿を見ていていつも思いますが、すべての所作には“流れ”があるんです。例えば、空手などには型がありますよね。もてなしにも同じように型があり、流れるようにやっています。また実際の振る舞いだけでなく、あるべき精神性や直感的に世界を把握する点にも、共通点があるように私には見えます。日本のもてなしはアートですね。

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――ラミヤさんが驚いたもてなしとは、どのようなものでしたか?

ラミヤ 大げさに騒いで派手なサービスを提供するのではなく、お客さんが喜ぶことを自然にやってあげる。本当は先に準備をしているのに、何もやっていないような風で、スマートに。一つひとつの所作は小さなことなんですけどね。

 例えば系列旅館の「花小宿」では、足が不自由な方のために、玄関部分に昇降機のような装置が埋め込まれています。こういう場面でも、自然な流れでさりげなくお客さんに気を遣うんです。そうした行いは義理の母だけでなくスタッフ全員がそうなんですが、きっとみんな、本当に人に関心があるんだと思います。

 

――ラミヤさんが女将や日本のもてなしから学んだことは。

ラミヤ 優しさです。すごく優しくて、きめ細やか。小さなことをこつこつ毎日やっていますよね。義理の母は、「御所坊」にしばしば投宿していた谷崎潤一郎の研究会の皆さんと付き合いがあったそうですし、まるでアートのようなもてなしや振る舞いができるから、そうした人々と共鳴するところもあったのかな、と思っています。

後編に続く)