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 未和さんの件をきちんと検証もせずに、NHKはどのようにして過労死事件を踏まえて「反省」したのだろうか。このような中身のともなっていない「働き方改革宣言」は、時の政権が謳う「働き方改革」に便乗した外向けの企業PRとして捉えられても仕方がない。

放送中にニュースを伝える佐戸未和記者(NHKより)

受け身の姿勢を貫くNHK

 ここまでみると、NHKは最初から最後まで、未和さんが過労死したことに対して真摯に向き合おうという姿勢をみせていないことがわかる。

 未和さんが亡くなって1年後の命日にNHKが両親に持参した手紙には「慎んでお悔やみ申し上げます」と書かれているが、すでに労災が認定されていたにもかかわらず、謝罪の言葉は一言も書かれていなかった。

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 そもそも、未和さんが亡くなった直後に、勤務記録が手元にある会社側には過労死の可能性があることは認識できたはずだろう。過労死ラインの2倍ほどの残業に従事し、連日午前1時や3時まで働いていることを知っていれば「過労死かもしれない」と想像することはさほど難しくない。しかし、両親いわく、NHKとは労災申請の前も後も、労災について話したことは一切ないという。遺族側が自ら動かなければ、労災と認められることはおそらくなかっただろう。

 また、社内で共有することや、その後、社会的に公表することについても、遺族が何度もNHK側に要求して初めて実現している。守さんは「NHKは過労死と公表されることで、他の遺族が自分もそうかもしれないと次々に声を上げることを恐れているのではないか」と話すが、まさにそうだろう。

 確かに未和さんのケースでは、NHKは勤務記録など必要な資料を遺族に提出し他社のように労災申請を「妨害」することはなかったかもしれない。しかし、未和さんの過労死の経緯をたどり多くの証言を集めるなど丁寧な調査や検証をした上で、過労死を防ぐための対策を講じているとは言い難い。遺族の要請にきちんと向き合う姿勢も見られない。その結果が、今年9月に公表された、2件目の過労死事件につながっていると考えられる。