会社が労基署に提出したタイムカードや日報をもとに計算すれば、A子さんの夫が過労死ラインを超えて働いていたことは明白であり、A子さん家族も裁判ではすぐに会社の責任が認められることになるだろうと考えていた。
しかし、会社側は様々な方法で「事実」を否定してきた。実は、民事裁判においては、労基署の調査内容や認定された労働時間を「事実」として、審理が行われるわけではない。裁判ではまた最初から証明をはじめなければならないのだ。
裁判所でも繰り返される会社の「妨害」
会社側は、そもそも会社が作成したタイムカードや日報であるにも関わらず、そこに記録されている時間よりも本来はもっと短かった、という主張を展開した。
また、タイムカードを打刻した後に仕事していたかはわからない、亡くなった原因は本人が高血圧だったからだ、などとも主張し、会社側の責任を本人に転嫁しようとした。
さらに、同僚の事務員の女性は証人尋問の中で、A子さんの夫が職場で妻のA子さんが料理しないことについて不満を述べていたと証言し、ストレスの原因が家庭にあり、会社は免責されるべきだと主張した。
被害者の「自己責任」論を展開
「〇〇さん(A子さんの夫)が亡くなって、労基署がいろいろ聞きに来た時に、会社が一方的に悪いような印象で帰られたのではないかと思って、私としてはそれだけではなく、本人の自己責任みたいなものもあるのではないかと思って(引用者注:労基署への手紙を)書きました」
と被害者の「自己責任」論を展開し、実際の労基署への手紙では「プライベートな話もしてきたが、今回、残念なことになってしまったのは、日頃の健康管理ができていなかったからではないかという気がしてならない」「家に帰って、ご飯を食べることがないと言っていた」「家族の悩みもお互いに話すこともあり、結構ストレスもあったようだ」と家族に責任があると主張している。