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 遺族側はこれを訴訟対策の「偽装解散」であると理解した。実際に、会社が解散して存在しないことになると、A子さんら遺族は仮に会社の責任が裁判で認められたとしても、補償を1円も受けることができない。そこで、弁護士と相談した結果、当時の取締役の個人責任も合わせて追及することで、A子さんの夫が過労死に至るまで働かされていた実態解明と責任追及を行うことにした。

 A子さんの夫の死の原因が過労であったことは、労災が認定されていた事実を踏まえても明らかだと思われたが、横浜地方裁判所(長谷川浩二裁判長、松本諭裁判官、長岡慶裁判官)は2021年3月27日に言い渡された判決で、基本的に会社側の主張を認めてA子さんが補償を受けることを否定した。

遺族の逆転勝訴

 横浜地裁判決では、株式会社サンセイの責任は認めたものの、取締役らには責任がないと判断したためA子さんら遺族が補償を受けることを実質的に否定する「完全敗訴」判決であった。そのうえ、A子さんの夫の健康にも問題があったとして、仮に株式会社サンセイが現存していたとしても、会社の支払い割合は賠償総額の3割にとどまるという、あたかも過労死した労働者が健康に気を使っていなかったことが原因だと主張しているかのような判決を下した。

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 当然この判決を不服として、遺族は東京高等裁判所に控訴。そして東京高裁(北澤純一裁判長、田中秀幸裁判官、新田和憲裁判官)は2022年1月、地裁判決を覆して、会社とともに取締役1名(安倍由和)に対し、約2400万円の賠償を遺族に支払うよう命じた(その後、最高裁で確定)。

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 安倍氏はA子さんの夫が働いていた当時、隣の部屋で一緒に仕事をしていた役員であり、A子さんの夫の残業が80時間を超えていたことの報告を受けていたため「過労死のおそれがあることを容易に認識することができ」たが、「業務量を適切に調整するための具体的な措置を講ずることはなかった」ことに対して責任を負うべきだと高裁は判断した。取締役の責任が認められたことで、A子さんら遺族は賠償を受けることができることになった。A子さんら遺族の逆転勝訴判決であった。

突然死を「過労死」へ

 東京高裁の判決はA子さんら遺族にとってだけでなく、今後の過労死裁判の動向に影響を与える大きな意味を持っている。