過労死の原因は「金目当てだった」と言わんばかりの主張
さらに、裁判の陳述書では「土日についても、家族で外食することが多いと聞いていたため、私は、いつ、奥さんが食事を作っているんだろ、といつも不思議に思っていました」「〇〇さんの奥さんは、〇〇さんから、『自分に何かあったらすぐに会社を訴えろ』と言われていたと言っていますが、本当にそうであれば、すぐに弁護士に依頼して、サンセイを訴えれば良かったと思います」などと、会社に代わって家族を執拗に攻撃している。
そのうえ、亡くなった本人に対しても、「残業代が出るようになった後は、少しそれ目当ての残業も多かった気がします」と過労死の原因は「金目当てだった」と言わんばかりである。
この主張をしたのは、亡くなった直後にA子さんを訪問し、涙を流して悲しんでくれていた女性である。この事務員は現在も同じ会社で働いており、会社幹部とのつながりも強いことから、態度を豹変させ、このような主張をしたのだと思われる。
職場にいなかった家族には、職場での様子について直接に反論することはできない。まさに「死人に口なし」といった状況で会社の好き勝手な「主張」を裁判期日のたびに聞かされた。そのことによってA子さんら家族が受けた精神的負担は計り知れない。会社としては損害賠償額をできるだけ減らすことに加え、遺族を精神的に追い詰めることで「もう裁判を続けられない」と訴訟を取り下げることを狙っていたのだろう。
しかし、「事実を明らかにし、会社に責任を認めさせてほしい」とA子さんらは諦めなかった。
会社側の「偽装解散」との闘いも
だが、同社の訴訟対策は上記のような事実の否定にとどまるものではなかった。じつは、株式会社サンセイは2012年冬に解散してしまっており、訴えるべき法人が存在しないという状態におかれていたのだ。会社の解散はA子さんの夫が労災が認定されてわずか5ヶ月後のことであった。
いま、同じ敷地には株式会社サンセイ・イサワという、株式会社サンセイの取締役であった安倍由和氏が経営する会社があるが、法的には別会社という取り扱いとされていた。同じ敷地に似たような名前の会社があるため、A子さんら遺族も会社が解散していたことを、裁判前に会社の登記を入手するまで知らなかったという。