「当時は電通で過労自死した高橋まつりさんのケースが社会的に大きな注目を集めており、NHKでも過労死についての番組が放送されたりしていたので、当然社内で未和の件も共有されているのだと思っていましたが、出会った記者やディレクターがまったく知らず驚きました」(恵美子さん)
このようなNHKの対応に憤り、このままでは未和さんの過労死がNHKの中で風化して葬り去られてしまうと危惧した両親は、未和さんの件を局内に周知するよう要求した。「社内でも共有されず遺族も黙っているままでは、NHKはもう忘れようとしているなと思いました。これは許せませんでした」と父親の守さんは私のインタビューに答えた。
未和さんの過労死を踏まえない「働き方改革宣言」
記者会見が行われ事実が公表された2ヶ月後の2017年12月7日、NHKは「NHKグループ 働き方改革宣言」を会長名で発表した。そこには「NHKグループは、業務に携わるすべての人の健康を最優先に考えます」と書かれており、具体的には「長時間労働に頼らない組織風土をつくります」とされている。
これだけみれば、NHKとしても、未和さんの過労死を踏まえて、対策を講じるようになったと考えても不思議ではない。しかし遺族は、それはちょっと違うと語気を強める。
「私たちは当時、世間に公表ではなくても、NHK社内できちんと伝わればそれでいいと思っていました。しかし、どうやって共有するつもりなのかとNHKに確認しているなかで、衝撃的な事実がわかったのです。それは未和に関する報告書をNHKが一切作成していなかったことです」(守さん)
驚くべきことに、「働き方改革宣言」は未和さんの過労死の原因を調査し、分析した結果を土台にして公表されたものではなかったのだ。未和さんの件では社内で調査報告書も作成されておらず、処分を受けた職員もいない。まともな調査も検証もしていないからだ。
「NHKが私たちの前で未和の件を『労務管理の欠如であったが不祥事ではない』と発言したのには、とても腹が立ちました。あまりに過労死を軽視している」(守さん)