風化しない「王将社長殺害事件」
それでも王将社長射殺事件はまだましだ。クリスマス前になると、決まって地域住民の話題になるからである。
JR山科駅を出ると、すぐ左側に「餃子の王将・山科駅前店」がある。事件が発生した12月になると、遺族や王将フードサービス社員、捜査関係者らが店舗周辺に立ち、通行人に情報提供を求めるチラシやティッシュなどを配るのだ。こうした光景はクリスマス直前の風物詩のように市民に記憶されている。
「こまい事件はあっても、このあたりで殺人事件なんてほとんどないからね。冬になると日野小学校の小学生が殺された事件(通称・てるくはのる殺人事件。容疑者は自殺。捜査本部は山科署)と一緒に、このあたりの人間の話題になるんですわ。殺された(大東)社長は、ものすごく評判よかった。ただあそこまで会社を大きくしましたから、なんの商売でもどこかで誰かの恨みを買うやろう、これは絶対になにかあるでって話にはなりますね。単なる噂でも、風化するよりええでしょう」(山科駅前の商店主)
事件現場となった王将フードサービス本社でも、12月には毎年献花が行われていた。事件から7年経った昨年末は、コロナ禍のため中止された。
暴力団関係者の関与は濃厚、現場近くに工藤會組員のDNA
捜査では北九州市に本部を置く工藤會の名前が挙がっている。現場から約1キロの場所で発見された煙草の吸い殻から採取されたDNAが、工藤會組員のそれと一致したためだ。鮮やかな犯行の手口からみても、暴力団関係者の関与は濃厚だった。現実には映画のような殺し屋など存在しない。それでも暴力団員は、サラリーマンよりずっと暴力に慣れ親しんでいる。
京都府警もかなりの暴力団関係者に接触している。
「警察……府内のややこしいヤツのほとんどに『なんか情報知らんか?』と訊いとるね。ある程度の概要は教えてくれるから、ヤクザはみなそれなりの情報を持っとるよ。そりゃあ刑事が取引材料にしてくる情報など、たいした価値のあるものじゃない。それでも府警の様子みてたら遮二無二なっとるのは分かるわ。なにしろ死体が上がってる事件で、被害者は有名人。マスコミはいまも興味を持ってる。このままでは引き下がれない……んやろうけど、威信に賭けて捜査しているわりには、ビッグニュースを聞かへんな」(京都の指定暴力団幹部)