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今、「非社会の子供」が増えているワケ

 君はなぜ、非社会の子供が増えているのかわかるだろうか。

 心理学の世界で指摘されている大きな要因の一つが、家庭での親子関係だ。特に幼い頃に親とどのような関係を築いてきたかによって、その子の性格が大きく変わると言われている。

 通常、親は生まれたばかりの子供をかわいがり、一生懸命に世話をする。赤ちゃんが泣けばお乳をあげ、顔をしかめればおむつを替える。

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 しゃべることができなくても語りかけたり、歌を聞かせたりする。寒い時には毛布を巻いて抱きしめてあげる。

 こういう小さなコミュニケーションを重ねる中で、子供たちはだんだんと親と信頼関係を結び、親の気持ちを考えたり、親のために何かをやろうという気持ちが芽ばえはじめる。そして成長していくにしたがって、そこで学んだことを家庭の外(幼稚園や小学校)で知り合った同級生など他人にもすることで社会性を身につけ、自立していけるようになる。親との良好な関係は、その子が社会性を習得するための土台なんだ。

 ところが、親との間に適切な関係がなかったらどうだろう。

 泣いても無視され、寒い夜もシャツ一枚で放置される。親は携帯電話ばかり見てしゃべりかけてくれない。そんな環境では、子供は他人を信頼したり、誰かのために何かをするという意識を育むことができないよね。社会に対する希望だって失われてしまう。結果として、学校へ行くようになっても同級生たちと仲良くできず、何に対しても真剣に取り組めず、道を外れていってしまう。

川崎中1男子生徒殺害事件にも繋がる、子供たちの変化

 学者の間では、これは「船と港」の関係にたとえられることがある。

 港(家庭)は、船(子供)にとって安心していつでも帰ることのできる場所であることが理想だ。最初、船はいつでも港に帰れる湾内をうろうろして航海する力をつけていく。

©iStock.com

 もし大雨が降るなどして怖い目にあえば、港に逃げ帰ればいい。そんな練習をくり返しているうちに、船はだんだんと大海原(社会)へと進出していけるようになる。

 しかし、港が信頼できず帰る場所でなければどうだろう。船は航海をするための十分な力をつけないまま、荒海へと出ていかなければならない。嵐になっても、雷が直撃しても、船は港に帰ることができず、荒れた海をさまよわなければならない。次第に船の帆や甲板が壊れ、船員は力尽き、どんどん先に進んでいくのが難しくなっていく。こうなると、船の沈没は時間の問題だ。

 つまり、子供がきちんと社会性を身につけて自立していけるようになるためには、幼い頃に親との信頼関係をつちかうことが重要だということだ。家庭環境は、子供にとって生きていくために必要な力を習得する学校のようなものだといえるだろう。加えていえば、近年の環境の変化が子供たちの非社会性をより大きなものとさせてしまっている。

「貧困率の上昇」「離婚家庭の増加」「ダブルワークの親やシングルマザーの下で育つことによる家庭内孤独」「ゲームやインターネットによる一人遊び」「不景気による将来への不安」「目標をいだきにくい社会環境」……。

 よく指摘されるのが、子供たちのコミュニケーション能力の低下だ。人とつながり、自己表現する力が弱まっているということだ。

 家庭環境や遊びの変化の影響も大きいだろう。親が家庭にいなかったり、ゲームやインターネットで一人遊びの時間が増えたりすることで、子供たちは社会から孤立しやすくなってしまっている。一人ぼっちになることで、よりコミュニケーション能力を身につける機会が減り、社会性がなくなって人とつながれなくなってしまうんだ。

 川崎中1男子生徒殺害事件の少年たちもまさにそうだった。