『RIDE ON TIME』のヒットでもらったピアノ
——演奏のアンサンブル的な側面に意識が働く。
山下「それはまったくそうで、ギターの弾き語りに興味が行かないんです。ピアノだったら音楽室で見よう見まねで弾いていたこともあって、コードを弾く程度なら視覚的な助けもあって、なんとかやれた。シュガー・ベイブ時代から、曲はほとんどピアノで作ってきてます。実家が木造モルタルだったので、2階にアップライト・ピアノが置けなくてね。26歳で家を出るまで、月賦で買ったコロンビアの電子ピアノで曲作りしていました」
——作曲もピアノというのが、ちょっと意外です。
山下「今でもほとんどピアノです。80年に『RIDE ON TIME』がヒットした時、当時所属していたRCAレコードの社長がビクターのピアノをプレゼントしてくれて。アップライトですけど、パーツはドイツのグロトリアンとライセンス契約していたもので、一番高いやつをもらいました。うれしくて、一所懸命それで曲作りしました。『FOR YOU』から『POCKET MUSIC』あたりまでは、全部そのピアノで作ってます。『クリスマス・イブ』を作ったのもそのピアノ。縁起をかついで、今でも家の仕事場で弾いています」
「ドラム以外は、すべて独学なんです」
——達郎さんの作品に見え隠れする“洗練”には、そうした背景があったんですね。
山下「ドラム以外は、すべて独学なんですけどね。複雑なコード展開が好きでも、アカデミックな音楽教育は受けてない。自分なりに研究するほかなかったわけです。コーラスに関して言うと、高校時代、フォー・フレッシュメンのコード・プログレッションが僕のお手本だった」
——ビーチ・ボーイズではないんですね。
山下「録音技術的に言うと、フォー・フレッシュメンが活躍した1950年代は、一発録りモノラルの時代なので、ハーモニー解析も、きれいに4声で採譜できるんです。後年、スタジオ・ミュージシャンをやるようになった時、フォー・フレッシュメンの採譜で勉強したことが、曲の構造をつかむ上でものすごく参考になりました。ビーチ・ボーイズの場合は、ダビングにダビングを重ねているせいで、分析しようにも何がなんだかわからない(笑)」