#2より続く)

編曲は人それぞれやり方がある

——端正なプロダクションを研究することを通じて、曲を把握するコツをつかんだ。

山下「僕らの世代のアレンジャーだったら、たとえば瀬尾一三さん。ピアノが弾けない分、全部レコードを聴いて覚えたそうです。今、僕と一緒にやってるギターの佐橋(佳幸)くんなんかは、スタジオ・ミュージシャン時代、スタジオのアシスタントに小遣いを渡して、普通はもらえないアレンジ譜をもらって、それで編曲を勉強したと言ってました。人それぞれ、やり方があるんですよね」

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山下達郎さん

——いずれにしろ、そうやって“盗む”と。

山下「そうです。というか、盗まないとダメ。僕の場合、ソロ初作の『CIRCUS TOWN(サーカス・タウン)』のアレンジャーだったチャーリー・カレロが、なぜかスコアをくれた。本来くれないはずのものなのに、なんか気に入られたみたいで。あれはどんな教則本より実践的な参考書でした。自分のレコードになってるんだから、かけがえがない。それで調子に乗って、次の『SPACY(スペイシー)』以降、自分でスコアを書き始めたわけです」

CMタイアップは“そんなにカネが欲しいのか”と言われがちだが…

——70年代末までCM音楽を多数手がけられたとのことでしたが、現在でもドラマや映画の主題歌など、広い意味でのタイアップ曲を手掛けられてますよね。

山下「厳密に言うと、僕はシンガー・ソングライターじゃないんです。作曲家、あるいはプロデューサーとしての好奇心のほうが大きいし、向いているとも思う。近松(門左衛門)のような、というと口はばったいけど、要は“座付き作者”ですよね。自分が前に出るより、誰かをバックアップして、その人の才能にプラスアルファする。そういう役回りにいずれは落ち着いていくんだろうなと、かなり後になるまで予想していました。ありがたいことに、今もって自分名義の作品を発表することができて、受け入れていただいてもいるんですけど。

 タイアップについて言うと、僕はテレビの音楽番組には出ないでやってきました。テレビが嫌いというわけではなくて、テレビというメディアの大きさが自分の身の丈に合わないという理由です。そうは言っても、テレビを100パーセント無視することはできないので、CMタイアップは言わば方便なんですよね。日本ではタイアップというと、とかく“そんなにカネが欲しいのか”みたいに言われがちですけど、そういうことじゃない。自分の作品を世に問うていく、生きる上での方法論のひとつに過ぎないわけで」