(#4より続く)
年を取った分、より妄想的になってくる
——今のお言葉から敷衍すると、達郎さんの歌詞に描かれる女性像、特に70年代のそれって、まりやさんが体現されているものとはまさに対極的な意味合いで「東京的」ですよね。
山下「僕が書く曲の根底にあるのは、都市生活者の疎外とか孤独ですから。それが対女性ということになると、ますますペシミスティックになる(笑)。そういう歌が昔から好きだったんですよね。ジミー・ウェッブとかハル・デイヴィッドとかジャクソン・ブラウンとか。3人とも、たいていの歌詞で女性がどこか遠くへと去って行ってしまう。しかも僕が書く女性って、全然具体性がない。はなからイリュージョンなんです。『LOVELAND, ISLAND』とか『高気圧ガール』みたいな曲も、サマー・ソングの代表みたいな受け取られ方をしたけど、とどのつまりは僕の中の幻想の表出だった」
——『SOFTLY』でも、ことラブ・ソングについて言えば、そうした構造がはっきり描かれている気がします。
山下「年齢もあるでしょうね。トシ取った分、より妄想的になってくる。『LOVE'S ON FIRE』では、“影絵芝居”なんてメタファーまで登場させてますから。色恋とか言ったって、もはや現実味がない」
——ある意味、谷崎(潤一郎)的でもありますね。
「特に女性の傲慢さ、ね」
山下「ソレホドデモ(笑)。20代の頃は、それこそ独身者だったし、女性との出会いにしても、まだ選択の余地があった。その分、男女の心のすれ違いに対するルサンチマンが、歌詞により強く出ていたとも言えますけど。特に女性の傲慢さ、ね。じゃあ、一体俺はどうすればいいんだ、みたいな。『スプリンクラー』にしても『Paper Doll』にしてもそう。身勝手な女性の手のひらで転がされている。超マゾヒスティックな歌詞ですよ。また、女の人がこういう歌を好きなんだなあ(笑)。アッコちゃん(矢野顕子)に至っては、カバーまでしてくれている。
『スプリンクラー』なんて、最初の発想はありふれたものだったんです。大阪フェスティバルホールだったかな。エレベーターを降りたところに“スプリンクラー制御弁”と書いたでっかい看板があって、それを見た瞬間、表参道の交差点でものすごい土砂降りに見舞われた時の記憶がシンクロした。それで書いた曲」
——想像以上に、歌の背景に夢がなかったです(笑)。
山下「すいません(笑)。だから素材は陳腐なんです。それをどれだけ妄想へとふくらませられるか」
——『SOFTLY』収録の「CHEER UP! THE SUMMER」は、まさに「高気圧ガール」に向けたセルフ・アンサーソングですよね。曲調的には前者をふまえながら、歌詞で思いきり冷や水を浴びせている。