山下「言うなれば“高気圧中年”の歌(笑)。いつまで昔の思い出をなつかしんでいるんだという、同世代に向けてのある種のメッセージ・ソングとも言える。その意味で『人力飛行機』とは、歌いかけている相手が真逆ですね」
ジョルジョ・キリコの絵画みたいなイメージ
——とはいえ、ストレートな言葉選びがメタファーを凌駕することもある。『SOFTLY』で言うなら、達郎さんとしては異例にブルース調の「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」や、古くはまりやさんとのご結婚直前に発表された「HEY REPORTER !」がそうでした。
山下「結婚報道自体、レコード会社関係者のタレコミだった。だから、スポーツ誌には“結婚!”の文字がクエスチョン・マーク抜きでどっと出た。結果、芸能記者がどっと押し寄せてきて、それで書いたのが『HEY REPORTER !』だった」
——もろもろの怒りがあったんですね。取材陣だけでなく、背後に対しても.
山下「ほとんどの場合、僕の作品の主役は抽象性が高い。雨だったり空だったり風だったり。そこにあるかなきかの感じで、人間がたたずんでいる。世界観的にはジョルジョ・キリコの絵画みたいなイメージなんです。
ところが、隙をついて現実のプレッシャーがのしかかってくることがあるんですよね。『俺の空』を書いた時もまさにそうだった。25階建ての高層ビルが、いきなり自分の家の前にそびえ建ったという」
“論争はしてもいいけど抗争はするな”
——達郎さんはお怒りになるとシンガー・ソングライターとしての度合いが高まるようにお見受けしますが、いかがでしょうか。
山下「なるほど。そうかもしれません」
——表現というか言葉遣いにも、いい意味で呵責がなくて。
山下「罵倒だったら、誰にも負けない自信がありますから(笑)」
——でも、まりやさんとはそうはならない。
山下「全然ならないです。結婚して今年で40年になりますけど。あちらのご両親が仲がいいのも影響しているかもしれないです。情緒的に不安定になってとか、一切ありませんから。納得できないことは、できるまで言葉で語り合う。
夫婦仲について、もう一点、言うべきことがあるとすれば、“論争はしてもいいけど抗争はするな”と。自分の気持ちは、言葉を尽くして相手に伝えようということなんです。夫婦にしろ恋愛中のカップルにしろ、もめるきっかけってお互いの揚げ足取りでしょう。“何よあなた、その言い方は”に始まって、“大体あなたはこの間もこうだった”。そう言われるとこちらも“そういうてめえだって”と返したくなる(笑)。
唯一文句を言われることがあるとすれば、彼女がコンサートで『プラスティック・ラヴ』を歌って、最後のコーダを僕がつける時くらいかな。”達郎が客を全部持って行く”って、ブツブツ言ってます。冗談(笑)」