以心伝心とか、目と目で通じ合うとか、歌の世界以外あり得ない
——音楽カップルならではの悩み。
山下「だからあの曲以外では、粛々とギター弾いてます。そっちのほうがかっこいいと思うし」
——円満の秘訣がわかったような気がします(笑)。
山下「結婚式でスピーチする機会があると、かならず言うんです。基本、人間は言葉を使ってコミュニケートする動物であって、それ以外に意思疎通する方法はないですよと。以心伝心とか、目と目で通じ合うとか、歌の世界以外、あり得ないんだから」
——達郎さんが結婚式でスピーチする立場になられたという事実に、時の流れを感じます。
山下「そんなの、80年代からありますよ。しかも、かならず一曲歌わされる羽目になるので、それ用にカラオケまで作りましたから(笑)。事務所のスタッフとか、ある程度深いつきあいの相手に限りますけど。いつも、徹底的に言語を通じて、お互いが納得し合わないとダメですよと、それだけは言うようにしています」
著名人が亡くなるたびに起こる追悼ブームは、一体何なのか
——最後にもうひとつ。『SOFTLY』を聞いて思ったのが、2013年に亡くなられた大瀧詠一さんへのトリビュート的なお気持ちがあったのかな、ということなんです。「人力飛行機」と「OPPRESSION BLUES」、2曲のドラムスがかつてのシュガー・ベイブのメンバーであり、大瀧さんのレコーディングにも縁深かった上原ユカリ(裕)さん。「REBORN」のように、別れを経た後の“再会”を歌いこんだ曲も収録されていましたし。
山下「ここ10年で、親しかった方たちが両手の指の数くらい亡くなりましたからね。大瀧さんもそうだし、筒美さんしかり。編曲家として僕も大変お世話になった服部克久さんしかり。
——中でも大瀧さんに関して、達郎さんがあえてコメントを控え、語らずにいたという印象があります。
山下「亡くなって、来年で10年になるんですよね。僕の周りでの、直後のあの異常な追悼ブームって、一体なんだったんだろう。なら、ご本人が生きているうちにもっと評価してあげたらと思う。同じようなことは、著名人がなくなるたびに感じる。人の生き死にって、言葉は悪いけど“デス・ビジネス”とは違う、もっと真摯なところにあるんじゃないか。じゃあ何が真摯な対応なのか簡単には言えないけど、少なくとも僕が考えるものとは違ってた。そこには加担したくなかったというか」
——シュガー・ベイブ唯一のアルバム『SONGS(ソングス)』以来(大瀧詠一氏が設立したナイアガラ・レーベルの第一作)、かれこれ40年のおつきあいですよね。
山下「僕と大瀧さんの間には、ちょっと人には説明できない、当事者以外にはわからないようなものが、たくさんあるんです。音楽的なこだわりもあれば、ビジネスの問題もあった。感情的な側面もそこに加わるので、だけど、愛とか憎とかいう表現とも全然違う」