文春オンライン

切れ端の野菜、半端の肉を捨てたら「きっと私は地獄行きだ」…人気料理研究家が食べ物を捨てない“本当の理由”

『捨てない未来 キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』より #1

2022/11/15
note

欲望を肥大化させてきた私たち

 「捨てる」って、すごくさっぱりします。すっきりします。でも余分なものをどこか見えないところに片付けて終わりにする現代の暮らしは、生き方自体を変えなければいけないところまで来ているのかもしれないと思います。

 地球規模の経済的悪循環のシステムである、大量生産、大量消費、大量廃棄という負のループから降りて、未来を生きる子どもたちにおおらかな自然環境を残したいです。

 大きな野望のようですけど、マジです、本気で思うようになりました。

ADVERTISEMENT

 物質的な豊かさではなく、気持ちの豊かさが社会を廻していく、そんな社会を考えていかないと子どもたちに申し訳が立たない。かなり切羽詰まったところまで、地球が悲鳴をあげるようなところまで、私たち、欲望を肥大化させてきてしまったのじゃないか、そうも思うのです。

 行き過ぎちゃったとしたら、少し立ち止まって、または来た道を少し戻って、何が大事かをもう一度考え直したい。すぅすぅと風通しのいい循環の中に自分という存在を置いて、過不足なく、つまり「足るを知って」生きていく、そんな段階に進めたらなあ、と思うのです。

『ビッグイシュー』販売者さんたちの「夜のパン屋さん」

 話、少し変わります。

 私は、生活に困窮した人たちに雑誌販売という仕事をつくって支援する「ビッグイシュー」にここ10年ほど関わってきました。あるとき、そのビッグイシューに篤志家の方からの寄付が寄せられました。みんなに配って終わってしまうのではなく、なんらかの形で循環するような使い方をしてほしいというご意向でした。

 さて、一体何ができるだろう、考えました。その末に生まれたのが、2020年10月16日に始めた「夜のパン屋さん」です。

 最初からプロジェクトの構想があったわけではなく、循環できる形、として考えたのが、あちこちにあるパン屋さんの閉店後に残ってしまいそうなパンを預かってきて販売するという小さな商いでした。いろいろな場所で雑誌『ビッグイシュー』を販売している販売者さんたちに、その近くのパン屋さんからパンをピックアップしてきてもらうのはどうだろう? 最初の発想はそこからです。

 フードロス削減に多少なりとも貢献し、またその販売利益で、パンをピックアップして販売する仕事のギャランティをつくります。まあ、きちんとお金を計算できる人が考えればあまり儲かる仕組みとは言えないと後になってわかりましたが、儲かるかどうかよりも、少額にせよギャランティを払ってパンをピックアップし、それをお客さんにお渡しする、食べ物の命を全うすることができる、そのことがなんだか誇らしくもありました。

 利益が第一目的というよりも、社会的に起業してごくごく小さい規模ながらオルタナティブな経済に参加する。少し鼻息も荒くなりました。