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「自分らで食べたくないもん、つくるんでねえよ」

 またまた少し話は飛びます。

 油のことを思い出しました。普段使いとしてどんな油を使うかを考えていたときに、いろいろな経緯から商品としてドレッシングを作ることになり、油選びにさらに力が入りました。原料が遺伝子組み換えでないもの、ドレッシング全体の味に馴染むもの、価格が折り合えるもの、などで探しました。

 紹介してもらって、なたね油を搾る小さな工場を見学しました。工場、というよりは工房と呼んでもいいような、懐かしく温かく感じる規模です。かまどだったか、古いレンガ組みの様子が、まるで絵本に出てくるようで印象に残っています。

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 「昔、カネミ油症事件(※1)、というのがあったんです。そのとき、祖母が『おっかねえ油つくるんでねえよ。自分らで食べたくないもん、つくるんでねえよ』といったんですよ。その言葉をずっと守っているんです」というのは、製油会社の社長さんの説明。搾ったあとも、薬剤を使わずにお湯で何度も洗って精製して不純物と油を分離する方法でつくり上げた、おいしいいい油でした。

食べ物じゃないものを使うのはちょっと心配

 油の搾り方について教えてもらったことを覚えています、というか忘れられずにいます。圧縮搾り、というのはよく聞く言葉で、つまりぎゅうっと押し潰してたら~りと出てくる油を搾る方法ですが、搾りかすが残るわけです。で、普通の油の場合はそこに、ノルマルへキサンという溶剤を入れてさらに搾るのだそうです。溶剤、つまり搾りかすのなたねに残る油を溶かし込んで浮き上がらせるわけ。そうして上に浮いて来た油を加熱して溶剤を揮発させると油が残る、つまりたくさん搾れる、歩留まりがよくなるのだそうです。

 見学していた私たちのところに、その工場では使っていないノルマルへキサンの小瓶が回ってきて、順番にみんなで匂いを嗅ぎました。「あっ、ベンジン!」「あっ、ベンジン!」という小さな声が広がりました。私は、揮発してこれがなくなったとしても、なんだかちょっと心配、食べ物じゃないものを使うわけだからなあと思ったのでした。

※1・・・1968年、カネミ倉庫(北九州市)製造の食用油(米ぬか油)に、脱臭工程で熱媒体として用いられたポリ塩化ビフェニル(PCB)が混入し、摂取した人々に深刻な健康被害がもたらされた食中毒事件。発症の主因はPCB類、及びPCBが加熱され、酸化したポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF/ダイオキシン類の一種)など。吹出物、色素沈着、目やになどの皮膚症状のほか、全身倦怠感、しびれ感、食欲不振などの症状があり、改善には長い時間がかかる。