フードロスや貧困問題の解決に奔走する人気料理研究家・枝元なほみ氏。そんな枝元氏が2022年10月7日に新著『捨てない未来 キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』(朝日新聞出版)を上梓した。

 枝元氏は本書の中で「〈フードロス〉を考えることは、〈未来〉を捨てないことにつながっていくのだ、そうも思えてきました」と綴っている。ここでは、本書からさらに一部を抜粋してお届けする。(全2回の2回目/1回目から続く) 

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「一番貧乏な人は飢え死にですね」

 役者をしていたころには、友人の始めた小さな無国籍レストランで料理をしていましたが、劇団の解散後、縁あって料理研究家となり、本格的に食の仕事を始めました。その当時、まったく知らないアラブ文化圏の料理を習いたいと思い、教室に通ったことがあります。先生は、現地で結婚してムスリムになった日本人の方でした。安い授業料ですべてひとりで回していらっしゃったので、私も手伝うようになり、いろいろな会話をするようになりました。

 あるとき、再びイラクへ行くとおっしゃる先生に、「イラクの人たちはどんな食生活をなさっているんですか」と聞いたことがあります。すると先生は、とても小さな声で、「そうですね、やっぱり一番貧乏な人は飢え死にですね」と。私はもう、ガーンとショックでした。

 戦中育ちの私の母は、「冷蔵庫がいつもいっぱいになっていると安心なの」、「安いものがあったら買っておきたいのよ」などとよく言っていました。それは、足るを知るの「足る」がない中で生きてきたからこその、切実な食べ物への思いの表れだったと思います。でも、私の世代はもう、子どものころから「飢える」経験とは無縁で、高度成長期以降の日本しか知りません。

 何が贅沢って、新しいこと、おしゃれなことが贅沢というような時代。食べ物の世界も、利潤を追求するフードビジネスへと進み、その先に大量生産・大量消費・大量廃棄の社会ができ上がっていったわけですが、私たちは、その上辺のいいところだけを見て過ごしていたように思います。

 まして私が食の仕事を始めたころは、バブル景気のさなかです。いろんな国のいろんな料理が次々と流行り、クリスマスには恋人と高級レストランで、というような風潮になっていました。