ビッグイシューのフラットな関係性
今の社会の仕組みが持つ歪みは、貧富の差の拡大という形で顕著に表れています。私自身が貧困の問題と関わるようになったのは、『ビッグイシュー日本版』(有限会社ビッグイシュー日本)との出会いがきっかけでした。『ビッグイシュー日本版』は、ホームレスの自立支援を目的に2003年に創刊された雑誌で、住まいのない人たちが、路上でこの雑誌を販売することを仕事にしています。私は、創刊の翌年辺りから連載記事を担当して料理を作り、2019年からはビッグイシュー基金の共同代表となって活動に携わってきました。
この雑誌から初めて声をかけてもらったころの私は、社会のさまざまな仕組み、特にお金の循環のあり方にものすごく腹を立てていました。個人的な体験をひとつあげると、ある行政機関から料理教室の講師の依頼を受けたのですが、公の仕事という理由でギャランティが非常に少なく、大量の荷物を積んでタクシーで会場に行ったら赤字になってしまった。
ところが、その会場はやたらと立派で、行き交う外エレベーターはガラス張り、庭では噴水まで派手に上がっている……。ハードにばかりお金が費やされ、ソフトの部分、人へのお金、文化活動などへのお金が削られる現実に、荷物の中の大根を噴水に投げ入れたくなりました。
その私がビッグイシューの活動に共感したわけは、会社と販売者さんのフラットな関係、そしてお金の明快さにあったのだと思います。ただお金を差し上げるのではなく、「面倒見るよ」でもなく、仕事をつくっているのがすばらしいなと。現在、販売者さんは、450円の雑誌を1冊売ると、約半分の230円が自分の利益になる。会社は220円で雑誌を制作し、活動を回していく。
そして販売者さんたちは会社から雇われるのではなく、個人事業主として自分の思うように仕入れ、売ることができます。そうすると、「今日は雨降ってるから休む」とか言う人が出てきたりするのも、また自由でおもしろいんです。