文春オンライン

ムスリム女性が「一番貧乏な人は飢え死にですね」と…人気料理研究家がショックを受けた日本と世界の“食の格差”

『捨てない未来 キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』より #2

2022/11/15
note

捨ててきたものが売れることは希望の種になる

 当時、私がそんなことを考えた理由は、農業者の方たちを訪ねて歩く中で、このままでは若い人たちがとても継げない、食べていけないという厳しい現実を知ったからです。では、農業の収入をどう上げていけばよいのかと考えたとき、捨てられているむかごの存在を思い出しました。長芋や大和芋のとろろは子どもがかゆがるといって作らない親御さんもいますが、むかごは6分ほど塩ゆですれば皮ごとぱくぱく食べられる。

 何より、ひとつの作物から2種類の収穫物が取れること、それも、捨ててきたものが売れることは希望の種になるのじゃないかしら。むかごが余計なものと見なされるのは「換金作物=長芋」という固定観念のせいじゃないの? その価値観を変えれば実現できるんじゃないの? と考え始めました。

 でも、農家さんの賛同を得るのは大変でした。俺は面倒だからやらん、両方はやっとられん、と。確かに、選別や袋詰めなど、面倒くさい作業ではありました。

ADVERTISEMENT

「農業がどうしたら経済的に成り立っていくのか」を考えるきっかけに

 それならば自分で流通にのせてみようと、農業者でも八百屋でもない私はあちこちに働きかけましたが、容易なことではありませんでした。農薬の問題もネックでした。むかごは、そもそも売る作物とされてこなかったせいか、長芋には使用可能とされている登録農薬の使用が認められない。

 つまり、農薬不使用の畑のむかごしか、流通しにくいこともわかってきました。懇意にしていただいていた無農薬栽培の農家さんが多忙なため、新幹線で畑まで飛んで行って自分たちでむかごを取り、東京に送り、洗って乾かして袋詰めして、マルシェに出店して100g 200円で販売して……なんてこともやりました。

 いったい私はどれだけの老後資金をむかごに注ぎ込んだんだ?というくらい(笑)。でも、捨てられるものをどうお金に換えていくかに取り組み続けたことは、今の農業や流通システムの問題、つくる人と食べる私たちの間がかけ離れてしまっている問題に気づいたり、その中で農業者が収入を得ていく困難を知ることにもなりました。

「一般社団法人むかご」を設立したのは、畑でロスになるもの、流通にのらないようなものが実は希望の種なんじゃないか、大企業によるフードビジネスだけでなく、農業というおおもとの仕事がどうしたら経済的に成り立っていくのかを考えたいと思ったからです。

 法人設立の直後に東日本大震災があり、しばらくの期間、被災地での食の支援活動のほうに大きくかじを切ることにはなりましたが、各地の長芋生産農家の方に1人ひとり声をかけ、むかごの販売をさせていただいたり、信頼する農家さんの畑でとれる、いわゆる規格外の野菜で作ったドレッシングを販売したりも始めました。

ムスリム女性が「一番貧乏な人は飢え死にですね」と…人気料理研究家がショックを受けた日本と世界の“食の格差”

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー