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 原作本に収録された作品にはほかにも「鉄砲」と題するエッセイがある。これは戦時中に発表されたものだが、作中の《鉄砲の威力的な使用法を理解した最初の人は信長であった》といった一文からもうかがえるように、いまでは広く浸透した近代人的な信長像が提示されていた。こうした信長像は、安吾が誰よりも早く描いて世に知らしめたものだという(半藤一利『安吾さんの太平洋戦争』PHP文庫)。

木村拓哉が演じる信長の「型破りな態度」とは?

 ドラマにも、このエッセイの内容を反映したと思しき場面が冒頭に出てくる。又三郎(近藤芳正)という商人が尾張の織田家に鉄砲を売り込みに来た折、父・信秀(夏八木勲)が戦では使えないと断ったのを、若き信長は強い関心を示し、自分が買い取ると言い出したのだ。ただ、所望した300丁分の金はなかったので、代わりに又三郎自身を奉行として召し抱えるという型破りな態度に出る。

 本作における信長は、すでにこの時点で、のちの長篠の合戦で実践したと伝えられる、有名な3段撃ちのアイデアを思いついていた。300丁もの鉄砲を入手したのもそのためだ。設定としてはやや先走りすぎのような気もするが、木村演じる信長は終始こんな感じである。

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『織田信長』(TBS系、1998年)

 そもそもこのドラマはフィクションと断っており、史実を改変したところも少なくない。事実関係を忠実に再現するよりも、ストーリーとしての面白さ、わかりやすさを優先したためだろう。登場人物もかなり絞られている。信長を主人公とする多くの作品でおなじみの今川義元や豊臣秀吉、徳川家康もこのドラマには出てこない。

 物語からして、父・信秀の死後、家督を継いだ信長が、その座を奪おうとする弟の信行と争い、敗れた信行を殺害したところで終わってしまう(ちなみに信行の役は、木村とはそれ以前にドラマ『あすなろ白書』で共演した筒井道隆が演じている)。本来なら見せ場となるはずの桶狭間の戦いをはじめ、その後の信長の活躍を一切描かず、青春時代に焦点を絞った企画が成立したのも、主演が木村拓哉だったからこそだろう。

当時25歳、初めての時代劇だった

 当時25歳の木村にとっては初めての時代劇とあって、脇を固める俳優も豪華だ。特別出演として、前出の信秀役の夏八木勲のほか、信長の母・土田御前役でいしだあゆみ、守役の平手政秀役で小林稔侍、そして美濃の斎藤道三役で西田敏行が登場した。