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 仮にこのケースで、ミニバンではなく軽自動車を一括購入した場合にはどうなるか。ローンがなくなり、月の維持費も1万円ほど安くなる。車にかかるお金は月に約2.3万円となり、手取り額から見た余裕は約6.3万円になる。将来を考えると、車に割く費用はこのくらいに抑えるのが望ましいだろうか。

 ベッドタウンのマイホームで子ども2人を育て、休日はミニバンでお出かけ……かつての平均的な家族像は、もはや平均的な給与水準にあっては実現が困難なのかもしれない。

政府側に税負担軽減の意向は見られず

 上に挙げた3つのモデルから見えてくるのは、20代~30代として平均的な収入があったとしても、東京都心部への通勤圏内に居住しながら車を所有するハードルは相当に高いということである。

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 現状ではどうにか維持できていても、車のローンや駐車場代によって収支のバランスが崩れ、将来設計に影響を与える可能性は否めない。税負担の面でも、車体価格や維持費の面でも、「軽自動車がギリギリ許容範囲」という人が多いのではないか。

 もちろん今回挙げたのは東京近郊のケースであり、家賃と駐車場代だけで8万円~10万円程度かかる環境での話である。これがたとえば2万円~3万円で収まるのであれば、比較的余裕を持って車を維持できるかもしれない。そうでなければ、生活に困る地域も多いだろう。

 とはいえ、「地方であれば車は維持しやすい」という状況が今後も続くかはわからない。政府の税制調査会において言及された「走行距離税」は、移動距離の長い地方のドライバーにとって大きな打撃となることが懸念される。

※写真はイメージ ©iStock.com

 自動車関係の税金は、ただでさえ複雑であり、課税の根拠が不明瞭なものもある。今年10月、自動車税制の改善に向けた動きを続けるJAFは、政府や関係省庁へ提出する「2023年度税制改正に関する要望書」を公開した。もともと道路拡充を目的とする特定財源であったはずの自動車重量税の廃止や、ガソリン関連税における二重課税の解消など、税制の簡素化と税負担の軽減を訴えた。

 しかし政府側の動きは、こうした要望と逆行するようである。10月26日の税制調査会における総務省説明資料には、「自動車に関しては、取得、保有、走行、各段階において総合的な課税を行うことにより、全体として適切な税負担が実現されている」との文言がある。複雑きわまる税制も、多面的な観点からの課税として肯定されているのだ。

 さらに資料においては、自動車関連の税収が減っている事実や、地方団体における自動車関連の行政サービスに要する費用が自動車関連の税収を上回っている事実などが挙げられ、税制の抜本的な見直しの必要性が示唆されている。

 走行距離税についての言及は、こうした背景をふまえてなされたものである。しかしそもそも、行政サービスに要する費用が税収を上回っているのなら、車検制度など行政サービス側のあり方をまず見直すべきではなかろうか。

 案の定、世間の大きな反発を招く結果となった走行距離税。上に見てきたモデルケースを見ても、増税への怒りはもっともだと言えそうである。