1965年(93分)/東宝/2750円(税込)

 前回の『地獄の饗宴(うたげ)』に主演した三橋達也の存在を初めて知ったのは、小学生の頃だった。テレビ朝日の「土曜ワイド劇場」枠で放送されていた「西村京太郎トラベルミステリー」シリーズで三橋は十津川警部を演じており、これが大好きで毎回観ていたのだ。

 ダンディ。当時受けた三橋の印象は、この一言に尽きた。同じ「土曜ワイドのダンディ」でも、天知茂は他を寄せ付けない孤独なダンディさが魅力だったが、三橋はその対極。どこか温かみのある、優しげなダンディさがあった。

 その時期はもうキャリア晩年に差し掛かっていたが、後年になって名画座で三橋の出演作品を観るようになり、若い頃から変わらないダンディさの持ち主だったと知る。

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 特に「国際秘密警察」シリーズで三橋は主人公の諜報員・北見次郎を演じ続け、毎回のように国際的な犯罪組織と対峙していた。ようは和製「007」というシリーズなのだが、たしかにあの柔らかいダンディさはショーン・コネリーに通じるものがある。

 今回は、その第四作『鍵の鍵』を取り上げる。

 舞台は東南アジアの架空の国家「トンワン」。反政府ゲリラ「闇」の首領・ゲゲン(中丸忠雄)が隠し持つ大金の奪取を、北見が政府高官に依頼されるところから物語は始まる。北見は二人の美女の協力を得て、ゲゲンのアジトである大型客船に潜入。そこから、危機また危機の諜報戦が、本家さながらの軽快なアクションと洒脱なお色気描写を交えつつ、展開されていく。

 本作で三橋の相手役を演じるのは、実際にボンドガールとしてコネリーと共演した浜美枝と若林映子。そのため、後追いで観た身からすると、三橋とコネリーが本当に重なって見えてくるのである。

 初登場シーンから、いきなり白人美女との濃厚なキスシーン。その際に見せる、大人の余裕すら感じさせる色気たっぷりな眼差しや去り際の軽妙な芝居は、本家ボンドに全く見劣りしていない。

 その後も、ことあるごとに――どんな危機的な状況にあろうとも――二人の「ボンドガール」を口説こうとするのだが、それが全く厭らしく映らないのは、三橋のダンディさがあればこそ。こうもウィンクが様になる俳優は日本にそういないだろう。

 終盤の船上での銃撃戦となると、屋内セットなのが見え見えで、アクションも緩い。そのためさすがに「007」に比べると安い感じが出てしまう。だが、変装してとぼけた感じを出している三橋が、瞬時に銃を構える姿のカッコ良さによって、心は一気に引き戻される。

 その魅力、ぜひご堪能を。