1963年作品(92分)/東宝/2500円(税抜)

 ここのところ、戦争映画ばかり取り上げてきた。読者の皆様も、違うベクトルの作品を求める頃だろう。今回で連載も四百回。戦争映画から離れ、記念になるような作品を――と思っていたところ、そうもいかなくなった。

 というのも、このタイミングで東宝が名作戦争映画の廉価版DVDを発売したのだ。といっても、岡本喜八監督の『独立愚連隊』シリーズや『私は貝になりたい』など、本連載で述べてきた作品が大半である。が、その中に一本だけ、「これは!」というのが紛れ込んでいた。

『独立機関銃隊未だ射撃中』。これまでデアゴスティーニの戦争映画DVDコレクションの中で発売されたことはあったが、それも今は在庫切れ。東宝自身によるDVD化を待望し続けていた作品だった。

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 今回は東宝への感謝の気持ちを込めて、予定を変更してもう一週、戦争映画にお付き合いいただきたい。

 舞台となるのは、広島・長崎に原爆を落とされた後、戦争最末期のソ連―満州国境の最前線。侵攻してくるソ連の大部隊に対し、日本軍はトーチカをいくつも配置した陣地で迎撃しようとする。トーチカとは、コンクリートで固められた、狭い砦。わずかな人間しか、その中にはいられない。

 ソ連の猛攻でトーチカは次々と沈黙。最後に残された一つだけが、徹底抗戦を繰り広げることに。

 本作が凄いのは、ほぼ全編がこのトーチカの中だけで展開されていることである。外の世界は、監視用の穴と機関銃を撃つために空けられた穴からのみ見られる。重く暗い空間の密閉感は、観ていて本気の息苦しさを覚えてしまう。

 そして、メリハリの効いた谷口千吉監督の演出が、観る者を全く飽きさせない。

 まず、トーチカ内の各キャラクターがそれぞれ魅力的。歴戦の風格ただよう班長(三橋達也)、人情味あふれる上等兵(佐藤允)、コミカルな古参兵(堺左千夫)、繊細な学徒兵(太刀川寛)、純粋な志願兵(麦人)。彼らのやりとりの楽しさが、序盤を盛り上げる。

 中盤に展開される敵戦車隊とのアクションも秀逸。ほぼ密室の中で展開されているのに、その向こうにソ連の戦車隊の存在を感じることができ、映し出される空間の狭苦しさからは思いもよらないスケールの大きさを味わえる。

 そのスケール感は同時に、彼らに迫る恐怖でもある。戦況が絶望的になっていく中で一人ずつ命を落とし、残された面々も心理的に追い詰められてしまう。最後は、なんのために戦い続けるのか分からなくなる不条理劇へ。

 ディテールまで描きこまれた傑作。この機会に、ぜひ。

日本の戦争映画 (文春新書 1272)

春日 太一

文藝春秋

2020年7月20日 発売