1981年作品(145分)/東宝/2500円(税別)

 最新刊『日本の戦争映画』(文春新書)は戦後に作られた戦争映画の変遷を、そこに込めた作り手たちの想いとともに検証した一冊だ。書くにあたり、製作された時系列にできるだけ沿って改めて作品を観直している。

 そうして立て続けに観ていく中で、「あ、ここで一つの時代が終わったんだ――」と思い知らされた作品があった。

 それが、今回取り上げる『連合艦隊』である。

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 一九八一年に公開された本作は、東宝が約十年ぶりに放つ大作の戦争映画だった。日独伊三国軍事同盟締結からの日米開戦、ミッドウェイとレイテ沖の敗北、そして沖縄戦での大和特攻まで、精強を誇った連合艦隊がいかにして壊滅したのかが描かれている。

 まず驚かされるのは、戦艦大和の威容だ。石川島播磨重工業が百七十日、九千万円をかけて作ったという全長十三メートル、重量約九トンの「ミニチュア」が岩陰から悠然と現れる初登場シーンの、まるでゴジラが出現したかのような迫力には圧倒された。

 キャスティングも豪華で、山本五十六を演じる小林桂樹を筆頭に、鶴田浩二、藤田進、三橋達也、佐藤允、丹波哲郎と、これまで戦争映画を支えてきた名優たちが居並ぶ。

 ただ豪華なだけではない。数々の名作戦争映画を作ってきた監督=松林宗恵、脚本=須崎勝彌のコンビは、共に海軍出身。戦中派として目いっぱいの情念を込めて、死にゆく者たちへの挽歌を綴る。「私は全く意味のない、ただ面子を保つだけの出撃を許す方がよほど恥ずかしい」「特攻機が毎日この基地から飛び立っていく。死んで来い――これはもう命令の限界を超えている」司令部から前線の兵たち、銃後の人々、全てが哀しみを抱える様が描かれていた。

 一方で、戦争映画を連続して観てきた身には、戦争映画そのものへの鎮魂歌に思えた。

「軍人俳優」と言えるほど数多くの戦争映画に出演した藤田進は軍令部総長で出演。勝算のない大和の出撃を「やむをえまい」と力なく認める。これまでさまざまな戦争映画で特攻シーンを演じてきた鶴田浩二は本作で大和の司令官を演じ、艦と命運を共にする。そして、凄まじい爆発をしながら沈む、大和のミニチュア。

 藤田も鶴田も、これが最後の戦争映画出演となった。松林も須崎も、この後少しして映画の現場から離れている。東宝も、大掛かりなミニチュア特撮を用いての戦争映画は再び作らなくなっていく。

 その辺りを踏まえて観てみると、滅びゆく連合艦隊、沈みゆく大和の姿が、戦争映画史にとっての一つの時代の終焉に思えてきてしまったのだ。

日本の戦争映画 (文春新書 1272)

春日 太一

文藝春秋

2020年7月20日 発売