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 システムの入れ替えがあり、コンピューターにそれほど強くない亜佑美さんは、日々の問い合わせに対応しなければならなかったが、わからないことが多く、毎日ビクビクしていた。周りから「お局さん」と呼ばれている古株の女性職員が、本当なら教えてくれるはずだが、彼女も新しいシステムのことなど何もわかっておらず、助けてはくれないのに、文句だけは言われるので、亜佑美さんとしては、職場に行くのがだいぶつらくなっていた。

 こんなことを課長に聞いていいのかと思いながら、やむにやまれず相談してみると、課長は丁寧に教えてくれただけでなく、わからないことがあったら、遠慮なく聞いたらいいと言ってくれた。厳しい人と思っていただけに、課長の意外に親切な反応に、亜佑美さんは、胸をなでおろしたのだった。

露骨に鬱陶しがる夫の反応に、頼るのを諦めてしまう

 それでも、最初は遠慮があり、課長が嫌そうにしていないか、顔色をうかがいながら、こわごわ声をかけるという具合だったが、何度目かに教えてもらいに行ったとき、課長も他用があるらしく、後はメールかラインでやりとりしようと言われたのだ。課長に聞きに行くたびに、お局さんが嫉妬深そうな目で睨んでいたので、その方が亜佑美さんとしても好都合だった。

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 それから、亜佑美さんは課長に相談することが増えた。課長からはすぐに返事がきて、丁寧に答えてくれる。亜佑美さんは、課長から返信がくるたびに、しばらく忘れていたときめきを、信頼感とともに覚えるようになっていた。

 亜佑美さんと夫との関係は、このところ冷え切っていた。亜佑美さんは、もともとは何でも相談しないと安心できないタイプだったが、夫は困ったことがあっても人に頼らずに何でも自分で解決すべきだと考えているタイプで、自分に頼ろうとする亜佑美さんを露骨に鬱陶しがるようになった。そんな夫の反応に、亜佑美さんは頼るのを諦めてしまっていたのだ。

 それに引き替え、課長の岳田はとてもまめなタイプで、何を相談しても、親身に考え、答えてくれる。信頼の思いは、いつしか好意に変わっていた。課長と一線を越えた関係になったのは、それから間もなくのことだった。

※事例については、実際のケースをヒントに再構成したものであり、特定のケースとは無関係です