人に気を遣いすぎて疲れてしまう、自分が嫌われていないか過度に気にしてしまう、感覚が敏感で体調を崩しやすい……。こうした経験に悩みを持つ人は「不安型愛着スタイル」の傾向があり、男性の1割5分、女性の2割が該当すると推測されるというが、その実情とは。
ここでは、精神科医の岡田尊司氏による『不安型愛着スタイル 他人の顔色に支配される人々不安型愛着スタイル 他人の顔色に支配される人々 』(光文社新書)の一部を抜粋し、母親からの押し付けに苦しむ女性たちの事例を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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近年は母親の顔色に支配されたケースが多い
かつては、横暴な父親の顔色に支配されて育ったというケースが多かった。したがって、すでに中高年になっている世代で、不安型愛着スタイルに苦しんでいるという人では、父親の存在が大きな影を落としていることがしばしばだ。
だが、時代とともに父親の影が薄くなり、顔色に支配されるという場合も、父親よりも母親の顔色ばかり見て育ったというケースが多くなり、特に近年、その傾向が強い。
母親が存在感を増したのには、核家族化や小家族化の流れの中で、母親だけのひとり親家庭が増えていることも関わっているが、父親の権威の低下や、父親が長時間労働や単身赴任などで実質的に不在であるという状況が当たり前になってきたことも挙げられる。
さらに、少子化できょうだいの数が減り、子どもに対する母親の関与が濃くなっているということもあるだろう。
いずれにしても、父親の関わりが減る一方で、母親のプレゼンスが増している。
母親の顔色が、子どもを支配し、子どもの不安型愛着スタイルを助長するという場合にも、いくつかタイプがある。
(1)情緒不安定な母親
その一つは、情緒不安定な母親の場合である。
たとえば、母親自身が、自分をうまく支えられず、落ち込んだり、子どものように泣いたり、リストカットをしたり、死のうとしたりする場合には、子どもは、母親が本当に死んでしまうのではないか、いなくなってしまうのではないかと、安心感とは程遠い気持ちを抱えながら日々過ごさなければならない。
気分が変わりやすく、とても上機嫌に可愛がってくれるかと思えば、些細なことで不機嫌になって、責め立てたり、ときには激昂して、「お前なんか生まなければよかった」とか「あんたなんか、うちの子でない」と存在自体を否定するような言葉を投げつけたりすると、安心感の土台が育まれず、たとえいま楽しく過ごしていても、いつ何時消え去ってしまうかわからない儚い関係になってしまい、本当の意味での信頼感が育まれない。