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 このうち観客のドレスアップはいまにいたるまで実現していないが、禁煙については日本でもその後、紅白の楽屋といわずあらゆる場所で徹底されるようになった。注目すべきは時間の変更で、無制限とはいかないまでも、郷がこれを書いた翌年、1989年より、それまで夜9時スタートだったのが7時台に前倒しされ、現在も続く。もっとも、これは郷の提案を受けてではなく、当時のNHK会長が紅白の終了をほのめかしたことから、芸能番組部のスタッフがそれに対抗すべく打ち出したものだった。放送時間の拡大とあわせ国際化も図られ、1990年には各国を中継で結び、長渕剛などが歌ったほか、シンディ・ローパーら海外の大物歌手が来日して出演した。こうした変化に合わせるように、この年、アメリカ帰りの郷が5年ぶりに出場する。

「アチチ連発」で最高視聴率を獲得

 このあと郷は1994年から2001年まで再び連続出場を果たす。これと前後して1993年リリースの「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」を皮切りに、「言えないよ」(1994年)、「逢いたくてしかたない」(1995年)と、のちにバラード3部作と呼ばれる一連の曲がヒットした。後2者は紅白でも歌い、大人のバラードも歌えるという印象を残した。

©文藝春秋

 1999年の紅白では、郷出演時の視聴率がこの年の番組中最高の数字を記録する。このとき歌ったのは「GOLDFINGER’99」で、彼にとっても《コスチュームも、舞台への登場のしかたも面白かったと思う。パフォーマンス的にも点数が高かったと思うし、忘れられない〈紅白〉です》とのちに語るほど、満足したステージとなる(『ステラ』2002年1月4日号)。

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「GOLDFINGER’99」の原曲はリッキー・マーティンの「Livin’ La Vida Loca」だが、日本語詞をつけた康珍化はそこに「A CHI CHI A CHI」というフレーズを登場させた。これを郷は面白いと思い、「アチチ」をもっと連発したほうがいいと自ら提案した。これが若者に大ウケし、郷の曲のなかでも屈指のヒットなる。

 郷が「GOLDFINGER’99」を楽しめたのは、20代半ばに「お嫁サンバ」(1981年)をめぐって次のような経験をしたからだ。この曲を提供されたとき彼は、メロディは気に入ったものの「1・2・3バ 2・2・3バ……」という歌詞に違和感を覚えた。デビュー時からのレコードプロデューサー・酒井政利にも強く抵抗すると、「これを歌えるのは郷さんしかいない。間違いなく、後世に残る歌になる」と説得され、無理やり自分を納得させてレコーディングに臨んだという(『文藝春秋』2022年5月号)。