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紅白で郷ひろみが最も歌ってきた曲は…

 アメリカで歌に磨きをかけた郷は、2010年に紅白に9年ぶりにカムバックし、以来、毎年出場を続けている。このころの紅白では、ベテラン歌手はその年のヒット曲ではなく、過去の名曲の歌唱が求められるケースが目立つようになった。郷も一昨年の2020年には、この年亡くなった作曲家の筒美京平を偲んで、筒美から提供されたデビュー曲「男の子女の子」と「よろしく哀愁」(1974年)をメドレーで披露した。

 紅白で郷がもっとも歌ってきた曲は「2億4千万の瞳」で、昨年まで通算7回披露している。2017年には「GO! GO! バブルリミックス」と題し、この年「バブリーダンス」で話題を呼んだ大阪府立登美丘高校ダンス部と共演して同曲を歌った。

 さらにラグビーW杯の日本開催で沸いた2019年の紅白では、白組トップバッターとしてやはりこの曲を会場外のロビーから歌い始めると、ラグビーボールを持ってステージまで縦横無尽に駆け回り、最後は客席にトライした。60代にして走りながら歌えてしまうのは、スポーツジムがまだ一般的でなかった30年以上前から日々トレーニングを欠かさず、心身を鍛錬している賜物だ。

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©文藝春秋

 紅白でトップバッターを務めたのは昨年までに7回と、白組・紅組を通じて郷が歴代最多である。1977年から80年まで4年連続で、そして60歳になった2015年から昨年までは3度務めている。そのキャリアからすればトリに選ばれてもおかしくないのに、それでもいまなおトップバッターに起用されるのは、郷であれば場を一気に盛り上げてくれると誰もが認識しているからだろう。そこにこそ彼の面目躍如がある。

「自分をアイドルと思ったことがない」

 今年デビュー50周年を迎え、インタビューも多数受けたなか、ある新聞では《僕は自分をアイドルとかアーティスト、エンターテイナーと思ったことがないんですよね。ひたすら50年間、自分の目の前にぶら下がっている“郷ひろみ”を見て走ってきただけなんです》と語った(『毎日新聞』2022年4月14日付夕刊)。

 郷によれば、みんなが思う郷ひろみを想像して「これからも郷ひろみでいたいの? いたくないの?」と自問すれば、おのずと体を鍛えたり摂生したりせずにいられなくなるという。それをモチベーションに24時間365日「郷ひろみ」であり続ける努力してきたら、50年が経っていた……ということらしい。四六時中他人の目を気にしての生活など凡人にはしんどいとしか思えないが、彼に言わせると《僕は人に見られている方が、気が楽なんです》という(『文藝春秋』2022年5月号)。それは紅白初出場のとき緊張しなかったという話にもつながってくる。やはり郷ひろみは天性のスターなのだろう。スターがいまなお努力を重ねているのだから、これほど強いものはない。