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 私の足の状態は、打撲による足のアザがより鮮明になっていたが、試合中に感じたしびれはまったくなくなっていた。ただし、この日は安静にして、様子を見ようと、ピッチには出ず、トレーニングルームでストレッチをメインとしたリカバリーを行った。

 ロシア戦の前々日。初勝利へ向けての練習が始まる。チームでグラウンドをジョギングしながら、体を温めていた最中だった。いつもと違う温度の汗が額を流れた。

 足はまたしびれはじめ、妙な痛みが出はじめた。

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「隆三、おかしいなら、練習やめとけよ」

 顔をしかめる私の様子に異変を感じたのか、ヒデ(中田英寿)がそう言った。

「なんでだよ、なんなんだよ」

 わが身に起こっている理解し難い状況に、ただただ呆然とするしかなかった。

 

ゴンさんの一言に目の奥が熱くなり、涙が出るのをこらえた

 ベルギー戦以降、複数の病院へ行き、治療を行う。足に腫れはなく、あるのは例のスパイクの痕のようなアザだけだった。MRI検査も行ったが、原因は特定されない。

「神経の炎症を抑えればしびれはなくなるかもしれない」

 そんな診断を受け、足首からダイレクトに神経にも注射をした。注射はその後も何度か打ち、血流を促すための注射もした。効果があるかわからないが、毎日すがるように酸素カプセルにも入った。しかし、どの注射もどの治療も、功を奏さなかった。

「まだ、思うようにプレーできません」

 そう告げるとトルシエ監督は、

「なんでできないんだ?」

 と納得のいかない表情を浮かべた。骨折や筋肉の断裂なら、映像で証明できる。しかし、神経系の負傷は、それが難しかった。痛みやしびれの数値化も同様だ。

 

 監督に指し示す「理由」がないのだ。

 4カ月も戦線離脱していたにもかかわらず、私をメンバーに選び、キャプテンまで任せたのだから、監督からすれば当然の反応だろう。

「ヒデは捻挫してもやっている、ツネもフェイスガードをつけてやっている! お前はチームのリーダーなのに、なんでこのワールドカップでプレーできないんだ!!」

 トルシエ監督が大声を発し、ダバディがそれにつづく。

「プレーできない理由を知りたいのは、俺自身だよ!」

 と言い返したい。しかし、痛みの原因もわからず、そもそも怪我であることも周囲には伝わりにくい状況だった。何も言えず、ただ黙るしかなかった。

 そんなやり取りを見ていたのか、トルシエ監督がその場を去ったあと、ゴンさんが近づ

 いてきてボソッとつぶやいた。

「いちばん、出たいのは、隆三だよな」

 ただそれだけだった。だが、その一言がどれだけ救いになったことか。

 思わず目の奥が熱くなり、涙が出るのをこらえた。

すべての瞬間を生きる PLAY EVERY MOMENT

森岡隆三 ,寺野典子

徳間書店

2022年6月9日 発売

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