「必要以上に硬くなっているぞ」と自分の硬さを自覚できれば、「そのぶん、より良い準備、ゆとりをもち、いつもより少しサポートを深く取ろう」と対処できる。
ヘディングにおいても、「はっきりと見えていないときは、とにかく高く大きくクリアしよう」と対応できるものだ。さらには、「ミスは起こる。大事なのはそのあとだ!」と、もっとも大事なマインドセットができる。その考えに至ると不思議とリラックスできた。
3年前にも対戦しているベルギーは、相変わらず、エラーの少ない好チームだった。危ないシーンを数回ほどつくられはしたものの、われわれは徐々に落ち着きを取り戻した。
対応できるという手応えを感じながら、0対0のスコアで前半を折り返す。
相手は当然のごとく日本を研究し、日本のプレースタイルである積極的なハイラインの背後を突こうとする動きを幾度となく見せていた。試合中、そしてハーフタイムにも、
「ボールの状況次第だけど、無理をしてラインを上げなくてもいい。セーフティーに行こう」
そうマツ(松田直樹)とコウジ(中田浩二)と確認をし、後半へ向かった。
ゲームの構図としては、それほど前半と変わらなかった。
どちらに転んでもおかしくない、そんなゲーム展開のなか、57分に一瞬の隙を突かれ、ベルギーのキャプテン、マルク・ウィルモッツに見事なオーバーヘッドを許し、ゴールを決められてしまう。
しかし、日本も負けてはいない。
シンジがディフェンダーとゴールキーパーの間へ出した絶妙なフィードに、タカユキ(鈴木隆行)が反応する。最後は体を投げ出しながら、ゴールキーパーの鼻先でボールを突つき、すぐさま同点に追いついた。自国開催のワールドカップ、記念すべき日本のファースト・ゴールは、まさに魂のゴールと呼べるものだった。
イナのシュートでついに逆転。しかし私はそこへ向かえなかった……
勢いに乗った日本は、果敢にゴールへの意欲を増していく。そして67分、2列目から絶妙なタイミングと巧みなステップで抜け出したイナ(稲本潤一)の素晴らしいフィニッシュが、ゴールネットを揺らして逆転する!
ゴールの喜びに湧くスタジアム、そして、チームメイト。その輪に加わり、喜び合いたい。しかし、私はそこへと向かえなかった……。
「左足がおかしい」
とピッチに腰をついた。
後半の途中から、違和感があった。左足の裏でしっかりとピッチを感じられない。
ずっと正座をしたあとのようなしびれ、もしくは椅子の角に肘をぶつけたときのようなしびれと痛みが入り混じったような感覚が、次第に増していっていた。
立っているときの感触は、足の裏に薄い水枕を敷いているような感覚だ。しびれはジンジンした痛みとともに、熱を帯びているようにも感じた。