「極めて強い異常な性欲の持ち主」
「極めて強い異常な性欲の持ち主。意のままにわいせつな行為ができるなら誰でもいいという無差別的な犯行。嫌がる女性を無理やり姦淫することに性的興奮を覚え、本質的に強姦への強い欲求がある。事件当日、飲酒後に拉致を画策した被告人はAさんを車ごと拉致している。Aさんの殺害はすべての発覚を防ぐ目的があった」(論告より)
先述の通り被告は、2013年から2014年にかけて新発田市内で女性に対する事件を重ねていたが、Aさん事件当時、いずれも犯人が喜納被告であるとは判明していなかった。“すべての発覚を防ぐ目的”があったと検察官が述べたのは、Aさん事件が発覚すれば過去の事件も明るみに出てしまうと考えた被告が、完全犯罪を目論んだという意味合いだろう。
「市内から現場までは約8キロメートル。自分だけが車で帰るつもりだった。目立たぬ場所での殺害を企てた。医師によれば『Aさんは生きているときに相当量の水を飲んだ可能性が高い』。被告はAさんを車から降ろし、小川まで連れてゆき、殺した可能性が高い。Aさんの着衣はめくれて乳房が露出していた。一貫した強い性欲につらぬかれた犯行であり、有利に斟酌するものはない」(同)
Aさんが発見された小川は、新発田市駅から離れた山間部で、事件の起きた2014年1月15日朝に「見たことない若え男」が目撃された場所から、さらに山のほう。畑や木々の中に住宅が点在する地域の、竹林の先にあった。竹で作られた献花台に手を合わせるために座り込むと、前を流れる小川は見えなくなる。水は窪みを流れているため、水面を確認するには立ち上がって覗き込まなければならない。
ここで雪深い1月に亡くなったAさんは、雪解けの頃である同年4月3日に、地元住民により発見された。Aさんの車が見つかった場所から350メートルしか離れていない。春まで遺体を発見できなかった理由を、捜査にあたった刑事が10月の公判で証言していた。
「ひとつ考えられるのは、当時積雪があった。ご遺体の発見時、小川内から体の半分が水面から出ていた。その上に積雪があったというのは、ヘリを飛ばしても見えなかった理由として考えられる」
「お母さんが代わってあげたかった」
Aさんの母親は、公判の意見陳述で、衝立の奥からこう訴えていた。
「暗い山の中に連れて行かれ、これからのことを想像する恐怖は想像できますか。お母さんが代わってあげたかった。絶対に被告人を許さない。この手で殺してやりたい」
「数日前に成人式を終え、あと3ヶ月で会社を辞め地元に帰ると楽しみにしていた。専門学校への進学を希望していると母に語っていた」(論告より)というAさん。極寒の1月早朝、人気のない小川で、喜納被告はAさんに何をしたのか。本人は全てを「覚えていない」と言い続けたが、新潟地裁は判決で、Aさんを車ごと連れ去ったのち、わいせつ行為に及び、殺害したという一連の行為が喜納被告によってなされたものだと認定した。
「ご遺族の気持ちを真摯に受け止めてもらいたい」
裁判長は判決言い渡し後、証言台の前に起立している喜納被告にこう語りかけたが、被告はこの問いかけには頷くことがなかった。