インターネットで検索すると、様々な自由診療の「免疫療法」が見つかる。治療が難しい、再発や転移のがんを、見事に治してしまうのだという。“治った証拠”として、治療前後を比較したCT画像が掲載されている。一般の人が目にすると、素晴らしい治療を見つけた! と思うのではないか。実はこれこそが、インチキ免疫療法の陥穽(落とし穴)なのだ。今回は違法なホームページ(HP)の掲載を続ける、ある免疫療法の呆れた実態についてレポートする。

(*文藝春秋12月号「インチキ免疫療法の陥穽」より、一部抜粋・加筆)

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がんが「治った!!」とセンセーショナルな宣伝

「がんは切っても捨てないでください。それが自分のがんと闘う武器になります!」

 こんなキャッチコピーで宣伝しているのが、「自家がんワクチン」という免疫療法の一種だ。がんの外科手術を受けると、摘出された組織は病理検査の後、「ホルマリン漬け」で保存される。この「ホルマリン漬け」組織を使って製造したワクチンが、がん細胞を特異的に攻撃するという触れ込みだ。

 自家がんワクチンを開発・製造している、セルメディシン社(茨城県つくば市)は、極めてセンセーショナルな内容のHPで宣伝している。「がん治療の専門医も驚いた症例の数々」として、自家がんワクチンで“劇的に治った”患者たちのケースが、画像付きで紹介されているのだ。

「トリプルネガティブ(*1)」の乳がんは、治療が難しく、再発率が高い。しかも骨に転移した厳しい状況の患者のケースが、5つの症例画像を添えて掲載されている。自家がんワクチンの治療を受けた後、胸部に大きく写る黒い影が、どんどん薄くなっていく。最後の画像に、影はほとんど見えない。そこには、赤い大きな文字で「治った!!」と付けられていた。このカラクリについては一番最後に解説する。

トリプルネガティブの乳がんが「治った!!」と謳ったセルメディシン社のHP(「がん治療の専門医も驚いた症例の数々」より)

 重い脳腫瘍の患者が、自家がんワクチンによって、完全奏効(CT画像等で、がんが消えた状態)になったというケースも症例画像で示している。患者は治療後に社会復帰したという。

 また、手術で摘出された「こぶし大」ほどの大きさの肺がん組織の画像には、こんな説明が付記されていた。

 手術前に、これほどデカい肺がんでも、胸水が溜まり始め、熱があっても、手術できて自家がんワクチンが投与できれば、長い間、無再発を享受することが可能です。(中略)この患者様、全く問題なく術後5年経過、主治医から「完治」の宣言が出ています。