「効きもしない高額な自由診療の免疫療法は、がん患者の切実な希望を欺いています。一般社会では詐欺罪に問われるケースなのに、医師なら許されてしまうのは絶対におかしい。同じような被害者を出さないために、提訴することにしました」(栃木弁護士)
異例の治療費全額「返還命令」が確定
自家がんワクチンをめぐる裁判では、自由診療の免疫療法が抱える欺瞞が浮き彫りになった。原告側の証人として出廷した、勝俣範之教授(日本医科大武蔵小杉病院・腫瘍内科)に、被告側の石橋総合病院の代理人が同じ質問を繰り返した場面である。
被告代理人「(自家がんワクチンが)絶対に効かないというエビデンスはあるのか?」
勝俣教授「効くというエビデンスがひとつもないので、効く可能性は非常に低い」
被告代理人「じゃあ、効かないことが証明されている訳じゃない?」
勝俣教授「そもそも効くという証拠を示さなければ、医学的には効果があるとは全く言えない」
新薬などの新しい治療法の臨床試験は、「有効性」や「安全性」を立証するために行われるのであり、絶対に効かないエビデンスは、「悪魔の証明」に等しい。有効性や安全性が判然としない治療法は、人体実験に等しい行為であり、患者のリスクがあまりに大きい。そのため新しい治療法は、臨床試験で有効性と安全性が確認されてから、多くの患者に使うのが、大原則になっている。この世界標準の考え方を無視しているのが、自由診療の免疫療法なのだ。
裁判は高裁まで争われ、今年7月、被告の友志会に治療費全額の返還と慰謝料の支払いを命じる判決が出て確定した。治療費全額の返還命令は極めて異例だ。一方、高裁判決でセル社の責任は問われなかったことを受けて、同社は「裁判所が弊社全面勝訴の判決」として、次のような見解をサイトに掲載した。
弊社としては、裁判手続を通じて、自家がんワクチン療法が「有効となる可能性がある」と公式に認められたと評価しております。(中略)画期的なイノベーションは、利権に固執する保守勢力に攻撃される運命にあります。
(セル社HP トピックス2022.07.25より)
これに対して、同社を訴えた原告代理人の栃木弁護士は、次のように反論した。