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「死者が生還した!」“自家がんワクチン”「脱法」広告の実態  エビデンスは不十分でも開き直る開発・製造会社の欺瞞

「死者が生還した!」“自家がんワクチン”「脱法」広告の実態 エビデンスは不十分でも開き直る開発・製造会社の欺瞞

2022/11/16
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茨城県庁「セル社にはHPの修正を指導する」

「改正医療法が施行された2018年以降、セル社から問い合わせは受けていない。同社のHPについては、慎重に検討を行い、かつ厚生労働省医政局の見解も得た。“誰もが治る”みたいな表現をしていることから『誇大広告』であり、受診できる病院が掲載されているので『誘引性がある』。その両面から医療広告ガイドラインに抵触していると判断して、セル社にはHPの修正を指導する」

 その後、セル社は「茨城県に確認済み」という記載を削除、受診できる病院の表示方法を変更した。だが、症例画像の掲載や「治った!!」などの表記は以前のまま。セル社に文藝春秋として取材したところ、次の回答が返ってきた。

「茨城県から許可できないと告げられた指摘部分は削除した。業者の管理ソフトが古かった為、修正に時間を要したが、今年5月25日に修正は完了している。治療前後を比較した症例画像や、『治った!』『骨転移があっても効いた!』などは全て事実」(セル社の回答・要約)

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 つまり同社は、医療法で禁止されている症例画像の掲載や、治療効果に関する記述を修正する考えはないらしい。

セル社のHPを見つけて目を輝かせるも、治療後に死亡した70代男性

 違法性の高いセル社のサイトに、惹き寄せられた被害者がいる。栃木県の日光街道で、人気のラーメン店を経営していた男性(当時70代)は、胆管がんの手術を受けた後、肝臓に転移が見つかった。抗がん剤治療の効果はなく、主治医から緩和ケアに切り替える方針が告げられた時、男性はネットで「自家がんワクチン」のHPを見つけた。妻によると、「この免疫療法なら転移した胆管がんも治せるらしい」と目を輝かせて語ったという。

 男性は自宅に近い、石橋総合病院(栃木・下野市)で、自家がんワクチンの自由診療を受けると決め、約150万円の治療費を全額前払いした。そして自家がんワクチンを3回にわたって投与されたが、その効果はないばかりか、すぐに体調が悪化して亡くなった。

自家がんワクチンの治療を行った石橋総合病院(栃木県)

 生前、男性から相談を受けていた栃木悟弁護士(宇都宮市)は、石橋総合病院を経営する医療法人社団友志会と、セルメディシン社に対して疑問を抱き、男性の遺族代理人として民事訴訟を起こした。裁判の費用は、すべて栃木弁護士の手弁当だという。