「東京で一番立ち食いそば屋らしい店はどこですか?」と尋ねられたら、真っ先に思いつく店がある。神田和泉町にある「二葉」である。

「二葉」は秋葉原駅から昭和通りを5分位北に歩いて右折し少し進んだ右側に、堂々と店を構える。店のある神田和泉町は江戸時代から商業で栄えた地域で、このあたりの昭和通りはかつて和泉橋通りといわれていたそうだ。この地で昭和42年から営業している。昭和42年といえば、五木寛之氏が「青年は荒野をめざす」を発表した年だ。「二葉」はもはや老舗と呼んでいいと思う。

 

売り切れると裏返して白くなる緊張感

 めずらしい焦茶色の軒先に「そば処二葉」の文字、木枠の格子状の扉が左右に二つ対称に配置されている。がらりと開けて店に入ると、やや高めの木目の綺麗な大きいどっしりとしたカウンターがL字に伸びる。天井が高く、白いタイルが清潔感を感じる。一瞬だがピリッとした緊張感が張り詰めるのがなかなかよい。

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 正面には白地にスミ文字で書かれた短冊メニューが並ぶ。売り切れると裏返して白くなる。POPなどはまったくなく潔い。

 久しぶりに寒くなった冬の午前10時頃に行くと、若旦那が寡黙だがにこやかに迎えてくれた。数年前までいらした大大将は今は引退されているそうだ。

甍(いらか)の波のように天ぷら達が並んでいる

 さて、「二葉」で注目なのは、なんといっても天ぷら達だ。高めのカウンターの前に立ち、メニューを見ていると、すぐ左下に並ぶ天ぷら達が目が入る。甍(いらか)の波のように天ぷら達が並んでいる。たくさんの種類があって、どれがどの天ぷらかよくみないとわからない。初訪問のお客さんは、みな長考することが多いのだ。