「デマを流すのは簡単でも、デマを否定するエビデンス作るのって結構大変で、どうしてもセンセーショナルなほうが目についてしまいがちです」――新生児科医・小児科医の今西洋介さんインタビュー第2弾。

 子育てに悩む母親たちほど「反ワクチン」や「医療デマ」を信じてしまう理由とは?(全2回の2回目/前編を読む)

なぜ母親たちは「医療デマ」を信じてしまうのか? 写真はイメージです ©iStock.com

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なぜ医療デマは拡散してしまうのか?

――そもそも子育て中の方は、なぜデマを信じるのだと思われますか?

今西 育児は正解の無い世界だということが大きいでしょう。大きなトラブルがなくても不安になりがちなうえ、母親に負担や責任がのしかかっている。するとそこにヒュッと現れた人が断言調で力強く導いてくれると、その人についていってしまう心理があるのでは。

 ワクチンの場合も、真っ当な医療情報では科学的根拠のある部分しかはっきり言うことができず、わからない部分に関しては説明できません。ところが反ワクチンの人たちは、断言しますよね。不安を抱える母親たちは、「わかりづらい」より「わかりやすい」ものに流れていきます。

 また今は、コロナ禍で孤独を感じる母親たちが増えているのに、情報だけはバンバン入ってくる。間違った情報を選んでも、致し方ない状況だとは思います。正解がないのもまた育児の楽しさではありますが、その正解のなさにつけこんでくる商売もありますので。

――昨今の育児デマが拡散されるルートはやはりSNS?

今西 もうほとんどがそうでしょう。SNSって平等に情報が行き渡りそうでいて、実際は全く違う。自分がいいねした情報や、フォローしている人の傾向でフィルターがかかり、ドツボにはまっていくしくみがある。SNSが発達する前は、地域の子育て広場とかが主催する講演会が、トンデモ寄りのものだったというのがよくあるパターンでしたが。

写真はイメージです ©iStock.com

 あとは子連れで歩いていたら知らないおばあちゃんに話しかけられ、よくよく聞いたら宗教の勧誘だったというのもよく聞きます。今でもそれらの手口は存在しますが、個人のSNSが発達してきたことで、怪しい情報への窓口がどんどん広まっている。

 デマを流すのは簡単でも、デマを否定するエビデンス作るのって結構大変で、どうしてもセンセーショナルなほうが目についてしまいがちです。東日本大震災の後は、放射能の影響で奇形の子どもが産まれていると主張するデマがありましたね。事故とは無関係の奇形の子どもの写真をアップしたりして、悪質でした。放射能デマで有名な「甲状腺のがんになる」なんかは、そこから10年ぐらいかけて「そもそも検査しすぎだった」という事実がわかったんですよね。

 誤情報が拡散されるツールは、ネットだけではありません。過去には朝日新聞が子宮頸がんのHPVワクチンに対してアンチキャンペーンのようなことをしていたのに、今は何事もなかったように、推奨する記事を載せている。新聞の言うこと、本に書いてあることを絶対視する人たちは一定数いますが、一回入ってしまった情報を誰が打ち消すのか。情報の怖さを、日々感じています。