「子どもの癇癪は愛情不足」「子どもは親を選んで生まれてくる」などの迷信はいかにして生まれるのか? 母親を苦しめる「呪い」が生まれる理由を、新生児科医・小児科医の「ふらいと先生」こと今西洋介さんが解説。金に目がくらんだ医師が、加担することも……(全2回の1回目/後編を読む)
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母親たちを苦しめる「呪い」
――子どもの癇癪は愛情不足。離乳食は手作りが一番。そして育児は基本、母親が担うべき。前時代的だとも思えるような考え方が、いまだ根強くあります。今西先生は、SNSや書籍で、それら母親だけに負担を押しつけて苦しめる育児の迷信・神話の存在を「呪い」と表現していますが、その理由は?
今西洋介医師(以下、今西) 医療の現場で、産まれた子どもが集中治療室に入ったりすると、自分のことを責めてしまうお母さんが本当に多いんですよね。一番多い質問も「私が悪かったんでしょうか?」です。実際、お母さんが食べたものでなる病気はあります。例えばトキソプラズマ症とか。
子どもの病気が「100%お母さんのせいじゃない」とは言えませんが、ほとんどの病気や障がいはお母さんが原因ではありません。それにもかかわらず、なぜ自分を責めてしまうのか?
ひとつは、誰かに「母親のせい」と言われるからです。誰かというのは、いままで信頼してきた親御さんだったり、パートナーだったり。その人たちもまた、小さいころに親やまわりからその迷信を聞かされていた。そうした積み重ねの結果です。
家族全体、ひいては社会全体にそういった言説が浸透して伝播して、精神的に特定の人を追い詰めていく。それはまさに「呪い」だと思いませんか。
「呪い」が生まれた歴史背景
――その呪いは、どこから来る?
今西 一例として「子どもを産むと女性は自動的に母性が湧き、心血注いで子どもの世話をしたくなるもの」という母性神話を見てみましょう。
そもそも江戸時代や明治時代にはそんな考え方は存在していません。ところが戦時中、男性が出征して戦地に行かされる事情から「母は強し」などと言って、耐えて国に尽くすのが母親だみたいな啓蒙が行われます。国をあげて、女性を神格化させたわけです。
次に戦争が終わった後の1950年代からの高度成長期には、男性は猛烈に働き、女性が家庭に入る専業主婦モデルが推奨されます。そこでまた専業主婦が神格化され、母性神話が定着しました。
確かに母子の関係性が子どもの発達に関わることは、確固たるエビデンスがあります。しかしそれが母性神話という形になると、母親の理想像の押し付けが強くなり、一気にお母さんの負担が強くなる。
しかも現在は、男性の賃金が減り女性も外で働くようになり、母性神話が成り立たなくなってきています。それなのに思想だけが残り、今を生きる母親たちが苦しめられている現状があります。