山形県・白布温泉の「西屋」で、女将をしながら「湯守」をしている遠藤央(ひさ)子さん。源泉温度が高いため、初めての人には熱すぎるという「西屋」の湯をちょうど気持ちのいい温度に調節する湯守の仕事は非常に過酷だ。央子さんは、ビジネスとして「温泉旅館は儲からない」と断言する。それでもなぜ“秘湯の宿”の経営を続けられるのか。11月26日、「いい風呂」の日にあわせて、長年温泉旅館を取材し、『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)などの著書でも知られる山崎まゆみ氏が話を聞いた。(全2回の2回目/前編から続く)

(西屋提供)

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はっきり言って、温泉宿は儲からない

――湯守として温泉を守り、ご苦労もありながら温泉を通した悲喜交々、お客さんとの出会いが央子女将の力になっている様子ですが、一方で宿を経営する大変さはいかがでしょうか?

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遠藤央子さん(以下、遠藤) はっきり言って、温泉宿は儲からない商売だと思うんです。私は、針のように細く長く続けていきたい。山奥にある宿ですから、背伸びをして高価な料理だとか、海の幸を出そうとか、そういうことは一切する必要はないと考えています。

――なるほど、人里離れた秘境の温泉宿「秘湯の宿」としての強みは、やはり温泉というお考えですね。

遠藤 温泉の温度が適温であることはいわばオプションでしかありません。温泉宿は立派な部屋や食事が美味しいとか、素泊まりか1泊2食付きなどで分かりやすく値段の差がつきますが、湯守のポジションなんてものはマクドナルドの「スマイル0円」みたいなもの。私がお客さんに温泉で癒されてほしいという思いだけでやってきたことです。そこにたまたま名前をつけたら「湯守」になったというだけで、お金を取るようなサービスではないんです。

©飯田裕子

 湯守は非常に泥臭い仕事なので表に出すつもりはありませんでしたが、「お客さんに気持ちよくお風呂に入ってほしいからこういうことをしてるんだ」という記録だけでも残そうかとホームページに女将ブログを書き始めました。そうしたらお客さんに「面白い」と言われて、「こんな話が面白いの?」と私の方が驚かされました。