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「はっきり言って“秘湯の宿”は儲からない」山形・白布温泉の女将が、子供たちに“跡を継いで”と言わない理由

遠藤央子さんインタビュー #2

2022/11/26
note

どこかが廃業して空き家になるだけで、一気に廃墟感が

――地域の過疎化という問題点は?

遠藤 人里から離れた山奥は、そこにあった家の灯りが切れてしまうだけで地域そのものがあっという間に廃れてしまいます。学校がなくなるのと同じぐらいダメージが大きい。

 だからうちの宿の建物を守るだけではなく、周囲の景観も守らなくてはいけないんです。うちが一軒宿ならまだしも、宿が4軒ある白布温泉の中で、どこかが廃業して空き家になるだけで、一気に廃墟感が出ます。「地域としてどうするか」をいつも考えておかなくちゃならない。 

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 そこは全部繋がっている問題ですよね。本当に地域を守る人がいるかどうか。その後を継ぐ人がいるかどうか。ここを訪れてくれる人以上に、私たちの体力が将来にわたって残されるかどうか。地域文化、温泉文化を継承することは、基盤の維持に繋がりますよね。それがなくなればどこの温泉地も廃れて消えていくだけなので、私たちもその瀬戸際に立たされています。

(西屋提供)

――央子女将のご両親は心配されているんじゃないでしょうか?

遠藤 心配するよりも「いいぞ、もっとやれ」でした。

――それは心強い。

遠藤 はい。うちの父親も山好きな人間なので。もっとも、これだけ大変だということは私も両親にはそこまで話してはいません。

――今日11月26日は「いい風呂の日」です。央子女将からメッセージを頂けますか。

遠藤 現代は、疲れの癒し方が分からない人がとても多いように思います。ストレスで溜め込んだ疲れは、温泉の温かさの中でゆっくり解くことができる。もう一度、素の自分に戻れる。そうして自分自身の力を呼び覚ますことを、ぜひ温泉で経験してほしいと思います。

――あまりの忙しさで、自分がどのくらい疲れを溜めているかを自覚してない人たちこそ、温泉は効きますよね。

遠藤 お風呂は、服を着て生活している人間が1日のうちで唯一、生まれたままの姿になり、温かい水に包まれる大事な時間です。さらに温泉は、あるがままの自然が生み出し、人間よりはるか昔から存在するものですから、人を癒して余りある力を持っています。悲しい時、不安になった時、疲れた時、気軽に温泉に入りに来てほしいですね。

 温泉を提供する者の本分は、人を癒すことにあります。山の中の宿ですけども、温かくして心を込めて、皆さんの訪れを待っております。

央子さんの肩にとまるオニヤンマ ©飯田裕子

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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