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ついに犯人を特定

 さらに同店の店員に、最近この鋏を売った人物について尋ねたところ、店員は答えた。

「1週間前の午前10時半頃、白髪交じりで歯並びの悪い労務者風の男が、この剪定鋏を買いました。男は代金を払うとき、穿(は)いていたズボンを膝のあたりまで下げ、腹巻のなかからおカネを取り出したので、憶えています」

 犯人の足取りが確認されたこの商店街で、徹底的な聞き込みを行ったところ、容疑者と思しき外見の男が、「浴衣姿でいたのを見た」との情報が入った。そこで、周辺の宿泊施設にも範囲を広げたところ、S町にある連れ込み専門の旅館で、新たな証言が飛び出した。

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「×月×日から2泊した客が、スポーツバッグを置いて出ていったまま帰らず、宿泊代金3000円を踏み倒された。その客は歯並びの悪い白髪交じりの50歳くらいの男で、自分のことを『斉藤』と名乗っていた」

 すぐにそのスポーツバッグを確認したところ、黒く「I」と印されたズボン、パンツ、シャツがあった。それは犯行現場の遺留品にあったジャンパーと同じ印である。

 さらに、旅館の主人が記憶していた「斉藤」という姓の、同年代の性犯罪の前歴者を抽出したところ、一人の男が浮かび上がってきた。

 それは斉藤道成という58歳の男で、幼女誘拐の前歴があるうえ、歯並びが悪く、しかも出生地や前回の逮捕時の住所から、現場付近に土地勘があることがわかり、彼の本件における容疑が濃厚となったのである。

 しかも、旅館の主人に協力を得て逃げた男の似顔絵を作成したところ、斉藤の被疑者写真と酷似しており、同主人に斉藤を含む9人の写真を見せたところ、迷うことなく斉藤本人の写真を選んだのだった。

 さらに犯行現場で見つかったビニール袋に付いていた指紋が、斉藤の左手人差し指と合致したことから、捜査本部は斉藤に対する、未成年者誘拐並びに殺人未遂罪での逮捕状を取り、追跡を行うことになったのである。